2007年の歌舞伎

 歌舞伎だけでなく、本当は年末に振り返るつもりだったんですが、わけあって何も書けずにいました。今日からちょこちょこ書いていこうと思う。
 まずは良かった演目から

仮名手本忠臣蔵 五段目・六段目(二月大歌舞伎)
魚屋宗五郎(四月大歌舞伎)
道成寺(十月大歌舞伎)
連獅子(十月大歌舞伎)
通し狂言 摂州合邦辻(国立劇場十一月歌舞伎公演)

 今年は三つの大きな通し狂言、つまり「仮名手本忠臣蔵」、「義経千本桜」、「摂州合邦辻」を観ることができたというのが大きかった。「摂州合邦辻」はともかく、「忠臣蔵」と「千本桜」は今までミドリでばらばらに観るばかりだったので、新鮮な気持ちで観ることができた。上には挙げませんでしたが、「通し狂言 義経千本桜」の権太編、忠信編はとても印象に残っています。仁左衛門の権太、菊五郎佐藤忠信、狐忠信は印象深いものでした。
 坂東三津五郎による「奴道成寺」は、「摂州合邦辻」の通しとあわせて、今年後半のハイライトだったように思えます。すこぶるおもしろい所作事で、家元の踊りの魅力を再確認した一幕でもありました。幕切れ、ぱっと花が咲いたような華やかさといったら。素晴らしい一幕でした。
 そして、坂田藤十郎の芸を堪能できた「摂州合邦辻」。これについては以前書いたので、ここでは詳しく書かない。観ることができてよかったという意味では、これが一番だったのかもしれません。通しで出るなんて、次はいつの話になるのかわからない。


 去年大きかったのは、中村勘三郎の復活の予感を感じられたということでした。2005年の襲名披露興行あたりから、どうにも本調子ではないような気がしていまして、襲名披露狂言でいえば「娘道成寺」以外はあまり感心できる出来ではなかった。同年の納涼歌舞伎の「法界坊」も、ぼくが苦手な演目ということもあるんですけど、凄味は双面になるまで感じられなかった。なんだか覇気みたいなものもあまりなかったように思えます。
 しかし去年1月の「鏡獅子」の弥生で「おっ?」と思い、四月の「魚宗」の迫力には圧倒されました。「どうして妹を殺しゃあがった」というせりふの凄味。ここでちょっと予感がしました。同じ月の「男女道成寺」の踊りっぷりも良かったです。
 6月のコクーン歌舞伎三人吉三」では和尚吉三を演じ、すさまじい芝居をしていました。大詰め前の吉祥院の場、妹と弟の首を持って戻る和尚の凄味といったらなかった。そして8月の納涼歌舞伎、「裏表千代萩」での政岡、仁木弾正、小助の三役。初役ばかりのようだったんですけど、また落ち着いて努めていて、良かった。元来巧い役者ですから、出来て当然なのかもしれないのですけれど。十月の新橋演舞場は全演目に主演する奮闘公演だったわけですが、やはり息子二人と共演の「三人連獅子」が特に印象深かった。迫力というのかな、鬼気迫るものが三人から発せられていたように感じた。
 そして年の瀬、十二月大歌舞伎。「水天宮利生深川」(通称「筆屋幸兵衛」)という演目が上演されたんですが、これが驚くほどに良かった。以前観たときに全くおもしろくなくて、先月の上演も期待していなかったんですけど、実際に観てみて、めっぽうおもしろかったのだった。本当に驚きました。
 歌舞伎座での襲名披露興行前後からの不出来がうそのように、今年観た勘三郎絡みの演目はどれもおもしろかった。今年はコクーン歌舞伎があり、秋には平成中村座があるようで、勘三郎からは目が離せそうにない。