THE VISITOR

Visitor

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 ジム・オルークの新作。インスト、全1曲、約40分という内容で、大変素晴らしいアルバムでした。鳴らされた音が響く、ただそれだけのことが何でこんなにも感動的なんだろうかと聴き終えたあとじっと考え込んでしまった。しかも音が広がっていくというよりも、響いた音が構成した空間に立っているような感覚があって、聴いている間は別世界に行けるというか、音の世界に浸れる。こういう感覚ってありそうでなかったな。
 約40分の、正確には38分の曲が1曲、しかもインスト、と聞くと実験とか前衛とか思ってしまいそうなんですけども、実は全然そうじゃなくて、びっくりするくらいポップで聴き易いのでした。ボーカルがないという時点で敬遠しちゃう人もいるかもしれないけどね……。ぼくにとってはとても聴き易いアルバムで、音や曲調がめまぐるしく変化していくので、聴いていて楽しいのよね。ジャケットのシンプルさとは裏腹にとてもカラフル。
 楽器は全部ジムが自分で演奏していて*1、生音中心の構成が実に好みです。聴き始めちゃうと音楽に浸るばかりで何も考えられなくなってしまうのであれなんですが、特に中心にあるのはアコギとピアノかなあと感じました。
 それにしても、ここまで豊かな音を示したアルバムもなかなかないと思う。たくさんの音が同時に鳴ったかと思えばアコギだけ、ピアノだけ、あるいは無音になったり、ミニマルだったかと思えばダイナミックに展開させてみたり。こういう音楽が聴けるっていうのは幸福なことだと思うな。ジム・オルークの、たったひとりでの制作過程というのは孤独で、苦行みたいなものだったのかもしれないけれども、結果としてこういう真実素晴らしい作品を作り上げることができた。間違いなく報われてるし、祝福されてると思う。売れるかどうかはわからないけど、歴史には残るだろう。だいたいここにはあらゆる音楽が詰められているように思える。少なくともぼくは忘れんだろう。
 できれば、いい音響システムで聴ければなあと思ってしまいます。ブックレットにも「でかい音で」と書いてあることだし。爆音鑑賞会とかないものかね(笑)。

*1:Hair Stylistics a.k.a.中原昌也さんのライナーによると、ジム曰く「とても大変です。何十トラックも使ってMIXしなければなりません…」。