日本の戯曲

去年上演され、今年の岸田戯曲賞受賞作となったポツドール主宰、三浦大輔の「愛の渦」*1を読んだ。
岸田戯曲賞受賞作は必ず単行本になるから、今回の受賞はかなりうれしかった。読んでみたかったもの。
しかし、ぼくは上演されたものを観ているからわかるのだけれど、戯曲だけを目にして、どれだけのイメージが湧くのかというのが気になるところだ。
十人弱の登場人物が二つか三つのグループになって同時に喋っているところとか、あとは会話の間合いとか、要するに台詞回し、そして俳優の身体性、存在感など、そういうのをぱっとイメージできるのかな。
まあ、それはともかく、ト書きがかなり細かく書かれてあって、やはりすこぶる緻密な演出がなされていたのだなと想像できた。
もうほとんどダンスの振り付けに近いんじゃないかとさえ思っていたが、やはりこれは演劇なのだろう。
改めて文字媒体で触れてみると、これは精密に組み立てられた群像劇であるように思えた。
行動や言動の書き込みが執拗なくらいに細かいのだ。実際に上演されたものをこの目で観たときには気づかなかった、いや気づけなかったのだな。
人物一人一人の肉体面と精神面両方での動きがよくわかる。
そして、劇中の至るところに存在している笑わせる工夫と暴力の予感がそれに彩りを添えているのね。
電車で読んでいたのだけれど、何度か笑いそうになってしまったし。
基本的には喜劇なのだけれど、空気がさっと変わる瞬間がある。それは何か嫌なこと、暴力的なことが起こる予感を観るものに与える。
この三浦大輔という人はその空気感を出すのが非常にうまい。
「ニセS高原から」という芝居を演出したときもそうだった。特に顕著だった。
長塚圭史と違って、行間から浮かび上がるんだよな、この人の場合。
それが凄い嫌。でも好き。
あとがきの態度がやたらと不敵なのもいいな。次が楽しみだ。

*1:

愛の渦

愛の渦