サイレントヒル

 暑い。暑すぎる。ということで、映画「サイレントヒル」を観に行ったのだった。正直たいして期待していなかったのだけれど、これがなかなかおもしろかった。カナダに実際に作ったという舞台装置のビジュアルがすてきすぎ。
 「バイオハザード」みたいなアクション映画になっているのかと思いきや、しっかりホラーだった。ていうか、かなりエグい。インデペンデント系ならまだしも、ハリウッド資本でこれは大丈夫なのかって心配してしまうくらい。
 そもそもぼくはゲームの「サイレントヒル」が好きなのだった。カメラワークとか舞台装置そのものがまんまゲームで、すごい嬉しくなってしまったのだけれど、ブログとかの意見を見ると、「カメラワークが糞」とか「展開がご都合主義」とか、そういう意見が多くて、やはりいろんな感じ方があるのだなと思った。正直カメラワークはもっと揺らして、なおかつ映像自体ももっと粗くすればもっとキモくていいんじゃねって感じだったけれど、それやるともう映画としての質に関わるから、難しいもんだ。
 都合のいい展開っていうのは確かにあって、主人公が手にするヒントがそれなのだろうが、そもそも主人公や婦人警官がさまよう「霧のサイレントヒル」はひとりの幼女の精神が作り出したものなので、なおかつ主人公に対して遊戯的な冒険をさせているのだから、ご都合主義で結構なんだよ、とおれなんかは思ってしまう。あくまで幼女が作った世界で踊らされているのだから。いくら幼女が大人びていても結局幼女だし、主人公が毎回ギリのところで助かるのも、ゲームマスターとしての幼女の存在があるからだろうし、だからこそ主人公が幼女の部屋に辿りついたときの幼女の台詞が「congratulation!」なのだろう。余談だけれど、この台詞を耳にしたとき、こんなやりとりが浮かんだ。

かみ「やっときましたね。おめでとう。このゲームをかちぬいたのはきみたちがはじめてです。」

 なんてな
 俳優陣で良かったのはアンナ役の人。出番は短いのだけれど、不安定さがすこぶるよかった。目が揺れているように見えるときがあった。
 あと、幼女役の幼女が素晴らしい芝居を披露していた。驚異的。いい幼女だった。ハリウッド版「地獄少女」を作るのなら、彼女だな。
 たしかに相当グロいのだけれど、映像自体は派手にグロくて、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」の痛々しいグロさとはかけ離れているから、気持ち悪くなったりはしなかった。「ヒストリー・オブ・バイオレンス」はかなり嫌だったんだけれど。そもそもぼくのグロ耐性は、自分でいうのもどうかと思うが、たいしたものだと思う。動じないよ、これくらいじゃ。「ネクロマンティック」とかはさすがにヤバいけど。
 ビジュアル面が本当にすさまじいことになっているというか、原作まんまなところもあって、とにかくよく作りこんでいるなあと思ってしまった。おもしろかったのはクリーチャーの動きで、ダークナースなんて、もう完全にダンスだった。コンテンポラリーダンス寄りの俳優というかダンサーを起用しているのかと思ったが、パンフレットによると、どうやらヒップホップらしい。全部そうなのかはわからないのだけれど。ダークナースはよかった。元人間的のキモい動きをダンスの振り付けにしちゃうっていうのはいいアイデアだ。CGに逃げないところがいい。
 ただぼくの中では「中年のおっさんが鉄パイプ片手に愛娘を探す」というのが「サイレントヒル」のアウトラインだったわけで、主役が女性になって、母性の部分を前面に押し出しているのはどうにも残念だった。もちろんおもしろかったのだけれど、ちょっと露骨過ぎて。婦人警官の最期の台詞も母親絡みだし。でも、そこが流れなんだろうな、映画製作の。とにかく「バイオハザード」みたいになっていなくてよかった。あれはあれで悪くはないと思うが。ミラ・ジョヴォビッチ強いし。
 「サイレントヒル2」があるとしたら、旦那のところに奥さんから電話がかかってきて、という展開になるのだろうか。おっさんの活躍が見たいぜ。
 ラストは透明感溢れるバッドエンドで、いい終わり方といっていいのかはわからないが、好みの終わり方だった。はれない霧の中を進んでいくところで終わっていたら、いよいよスティーブン・キングの「霧」になってしまうが、霧の世界から抜け出せないままに帰宅して、母と娘二人で異なった世界を生きなくてはならないという終わり方。父親が何気なく妻と娘の気配を感じ取る場面がせつないね。「現在のサイレントヒル」でも同じような場面があったけれど、そこが伏線としてあってのラストだから、余計によかった。
 そのラストにいたる前の場面。教会を出て、車に乗り込む場面。娘が助手席でなく後部座席に座ってすぐに寝てしまった場面を見て、これは間違いなくバッドエンドだなと思った。この娘は、サイレントヒルへの往路はわざわざ後部座席から助手席に移っているんだよな、何となく不安を感じて。ところが帰りはすぐに後部座席に乗り込んでしまう。おれの勝手な妄想かもしれぬが、変化を示す、わかりやすいシーンだと思った。
 ホラーといえば、「ディセント」っていうのが結構おもしろそうなのだけれど、どうかね。


 「サイレントヒル」とは全然関係ないが、本編上映前の予告編でこんな映画を紹介していた。韓国映画だ。正直「冬のソナタ」から始まった韓流ものにはほとんど興味が湧かず、「まあ、勝手にやってくれたまえ」という感じで、韓国映画自体もおもしろいのは何かあったような気がしたが、「ブラザーフッド」とか「シルミド」とか普通につまらなかった。しかしながら、趣味が合わんだけなのだろうなと考えていた。

僕の、世界の中心は、君だ。
http://wwws.warnerbros.co.jp/bokukimi/

 でも、これはねーだろ。(笑) さすがにこれはねーよ。リメイクかよ。予告編にあわせて平井健の「瞳を閉じて」の韓国語版が流れたとき、場内のお客さん軽く失笑だったんですけど。ぼくは爆笑しそうだった。これギャグじゃないよね。節操なさすぎだろ。
 とにかく、ブームに乗り遅れた感で溢れかえっていて、痛々しすぎる。(笑)