トルーマン・カポーティ

 「冷血」*1を読み終わったのだった。結構時間がかかった。題材も文章も重いから。しかし、すこぶるおもしろく、切ない小説、ノンフィクションノベルだった。以前読んだときのことをほとんど憶えていないというのは、結果として吉だった。スリリングな小説だよ、これは。
 作家の目線というのがこのノベルでは重要なのだと思う。何の罪もない幸福な一家を殺害した二人の男への、カポーティの目線だ。あまりにも切なすぎる読後感というのは、殺人犯である二人への、特にペリー・スミスへの優しい視線があるからなのだろう。カポーティが抱いていたのは同情でも憐憫でもなく、共感なのだと思った。だから優しいんだろう。同情的な文章にも思えるのだけれど、これはぼくの書き手としての勘なのだが、きっとカポーティはこの小説を書いている間、自分が殺人犯になっていたという可能性を考えていたんじゃないかと思う。ペリー・スミスへの共感と幸福な一家であり被害者であるクラッター一家への憧憬。この二つが小説を支えている。本当に悲しい小説であると思った。誰も救われないし、報われない。犯人を逮捕した警官も裁いた人間も、あらゆる登場人物が平等に報われない。そんな小説で、現実そのものだ。でも作者カポーティの目線は一定で、その報われなさをあぶりだす。うまく説明できないけれど、本当に素晴らしい小説だ。
 文庫とはいえ600ページ以上ある大作で、とっつきにくいかもしれないけれど、とにかくこれは傑作だ。秋に公開されるカポーティと、この小説「冷血」創作をめぐる映画「カポーティ」が余計に楽しみになった。前売り券を買っておこうかと思っているくらいだ。たしか来月公開。ガボの新作といい、映画といい、九月への期待で胸が破裂しそうだな。

*1:

冷血 (新潮文庫)

冷血 (新潮文庫)