秀山祭九月大歌舞伎/昼の部

一、車引
二、引窓
三、業平小町
   文屋
四、寺子屋

 昼の部の演目は上記なのだが、中でも注目は幸四郎吉右衛門の兄弟共演が実現した「寺子屋」であって、期待通り、いい芝居だった。不仲が噂されていた二人の共演だったが、舞台上よりもむしろ客席の方が緊張していた。(笑)

  • 「車引」

 松緑には荒事がよく似合う。去年五月の勘太郎他出演の「車引」もおもしろかったが、今回も良かった。どうやらこの演目が好きなようだ。わかりやすいからかな。観ていると、テンション高くなる。花形俳優のものしか観たことがないけれど、幹部クラスの俳優陣でも観てみたいな。ていうか、「菅原」の通し狂言観たい。

  • 「引窓」

 どうやらこの演目は苦手なようだ。ていうか、「双蝶々曲輪日記」があまりおもしろいと思えない。「角力場」もあまりおもしろくなかった。全段通しで観ると、印象も変わるのだろうか。吉右衛門の与兵衛と富十郎の濡髪という配役で、二人とも大好きな役者なので楽しみにしすぎていたかもしれない。与兵衛に関しては、序盤は去年観た菊五郎の与兵衛の軽快さが良かったけれど、後半は重みのある吉右衛門の方が良かった。一長一短。

  • 「業平小町」
  • 「文屋」

 雀右衛門はもう足が動かないのかな。観ていてハラハラしてしまった。「熊谷」の相模(だったかな?)で出たときも、ちょっとした階段を上り下りするのにも一苦労という感じだったし。もちろん年齢を考えると、一ヶ月興行に出続けるだけでもすごいことだし、実際この雀右衛門という俳優の存在感は半端ないのだから、こういうオーラみたいなものを感じるだけでも金を払う価値はあるよなっていう。
 「文屋」の方はつまらんかった。いっぱいいっぱいで勤めている感じがする。先月の「玉屋」もあまりよくなかったし。キレがないんだな。亀治郎と踊った「三番叟」はよかったんだから、体調が良くないのかもしれん。先月、今月と出番も多いし。来月は大丈夫なのだろうか。

 これだよ、これ。いいよいいよ。一年に何度かこういう大舞台を観ることができるから、歌舞伎見物はやめられない。去年の「盟三五大切」とか一昨年の「関の扉」とか。あ、両方とも吉右衛門だな。まあいっか。とにかく、ビリビリ来るような芝居がたまにあるのだ。ハマったときのすごさは例えようがない。正直、上に挙げた「盟三五大切」や「関の扉」ほどではなかったとも思うが、今年屈指の舞台だった。源蔵と松王が目を合わせる瞬間、そこにこの芝居のすべてが凝縮されているような気がした。劇場内の時間が止まったような一瞬の力はいったい何なんだろう。小劇場演劇でも、コクーンとかパルコでかかる芝居でも、ああいうのはないんだよなあ。歌舞伎、というか伝統芸能特有のものなのだろうか。
 ところでこの「寺子屋」。手元にある白水社の歌舞伎オンステージ16「菅原伝授手習鑑」*1の解説によると、「寺入り」から出すのが本来とある。でも今回もそうだし、2年くらい前に観た仁左衛門の松王、勘九郎(現・勘三郎)の源蔵での「寺子屋」でも「寺入り」はなかったと記憶している。あったっけ? 話の筋を考えると、「寺入り」から出した方がスムーズだと思うのだが、上演時間の問題なのだろうか。そういえば、「弁天小僧」の「浜松屋」でも、ぼくは日本駄右衛門の入りから見せた方が筋がわかりやすくていいと思うのだけれど、どうなんだろうね。以前、「白波五人男」を通しで上演されたときも日本駄右衛門が浜松屋に入る場面はカットされていた。少なくとも通しでやるときは出すべきだと思うのだけれど、「おいおい、正体が駄右衛門だなんて常識だろ? いいよいいよそんなのカットで」みたいな人も多いわけで、おれとか、難しいところですね。
 個人用メモ。今まで観た「菅原伝授手習鑑」。

  • 「道明寺」(03/2006)
  • 「車引」(05/2005、09/2006)
  • 「賀の祝」(09/2005)
  • 寺子屋」(06/2004、09/2006)

*1:

菅原伝授手習鑑 (歌舞伎オン・ステージ)

菅原伝授手習鑑 (歌舞伎オン・ステージ)