犬神家の一族

 有楽座での公開は今日まで。昨日観てきたのだった。
 原作にしろ映画にしろ、あまりにも有名すぎるので、もはや推理劇として機能しているとは思えず、実際に観てみても、ミステリ映画というよりも、おどろおどろしい人間のドラマとして作られているようだった。そのためのオールスターキャストなのだろうとも思った。
 そのオールスターキャストの中でも富司純子尾上菊之助の二人がドラマのシンを担って、期待に応える好演を見せたことによって、この映画には旧作とは違った魅力が宿ったのだと思った。それはつまり親子のドラマであって、謎解きでも妄念でもなく、親子間の情愛という主題が終盤に、しかも極めてシンプルな形で提示されたということだ。富司純子菊之助は実際の親子であるという事実がそれを強めているのかもしれない。
 実際、富司純子菊之助の芝居は素晴らしかった。富司純子に関していえば、この映画の中での存在の強さが段違いで、この人なしでは平成の「犬神家」は成立しなかっただろうと思うに充分だった。キセルを持ったときの型の綺麗さは絶品。母としての強さと弱さのコントラストが鮮やかで、ドラマの主軸はこの松子にあったとぼくは感じた。松坂慶子の竹子、萬田久子の梅子も悪くはないが、見劣りした。それは松子との扱いの違いなのだろう。
 菊之助の芝居について書くと即ネタバレに繋がるので書かない。ただ、良かったと書いておく。台詞も姿もいいし、映画にも対応できていたと思う。立ち姿や所作の綺麗さが不気味さに繋がるんだろうな。
 続投組の石坂浩二加藤武大滝秀治はさすがに手堅く、特に石坂浩二の時の経過を感じさせないような佇まいは探偵役に見事にハマっていた。ドロドロとした人間関係の中で、等々力署長は一服の清涼剤ですね。大滝秀治も出番は少ないながら、いつもいつも存在感のある芝居を見せる。
 驚いたのは奥菜恵の好演。この人独特のすれたような雰囲気が時代がかっていて、役にもぴったりあっていた。三好十郎・作の「胎内」に出演したときも感じたことなのだけれど、下品に古風なんだよな、この人。
 問題は松嶋菜々子である。この人は辛いわ。ハラが薄いから、何を考えているのだか全くわからん。いや、お話を知っているからわかるのだけれど、それにしたってダメだ。出演者の中で、一番ダメだったのは松嶋菜々子深田恭子がいつもの深田恭子で、それでも大きく破綻しなかったのはいつもの深田恭子でも全く問題のない役だったからなのだけれど、松嶋菜々子はもっと重要でしかもハラが大事になる役どころなのに、ただそこにいるだけという感じで芝居もクソもない。
 だから余計に母と子の姿が強く出てしまって、それはそれでいいのだけれど、結局珠世は何だったのかということになる。この映画だけではさっぱりわからない。
 という問題はあるものの、概ねおもしろい映画だった。出演者とかスタッフの名前がバンバン最初に出るところも日本の大作映画って感じがしていたし、あとあれね、テーマ曲、あれがいいね。テンション上がった。なぜだか日本語字幕が入っていて、ちょっと観辛かったのだけれど、充分満足できるいい映画だった。