アポカリプト

 メル・ギブソン監督最新作である「アポカリプト」を観てきた。2時間を越える長尺ながら、相当おもしろいエンタテインメントだった。

アポカリプト Apocalypto
http://www.apocalypto.jp/

 この映画の後半、主人公であるジャガー・パウはジャングルの中を逃げるのだが、その場面の疾走感と迫力溢れる映像には驚いた。動く動く。ジャングルロケで、これどう撮影したのだろうと思っていたら、大部分をデジタルカメラで撮影したらしい。で、プログラムに掲載の文章によれば、仕上げの段階で粒子を足してフィルムっぽいものになるように味付けをしたのではないかということだ。これが大成功だった。滝のシーンの迫力もさることながら、たしか中盤くらいでジャングルから見える空を仰ぐような場面があるのだけれど、そこの映像が鮮烈だった。逆に、撮影したままの生の映像がどんな感じだったのかも観てみたくなった。もちろん映画としては手を加えた方がいいと思いますけども。
 で、そんな映像に乗るのがほとんど演技経験のない俳優、というか、ボクサーとか大学生とか振付師とか、そんな方々なわけですが、このキャスティングは素晴らしい。せりふ術も何もない人たちだけれど、「そこにいる」ということに意味があった。アクションシーンやジャングルの動物にもCGをほとんど使わず、とにかく生身の身体を魅せることに徹していた。これはアクション映画として、まっとうなものだと思った。まさに身体表現ですね。CG全盛の今だからこそ余計に印象的だ。監督が俳優の身体を信頼していることが伝わってきたし、演出も的確だったのだろうと思う。身体性の復権を感じた。
 ストーリーが一本道で単純明快というのも良かった。複雑怪奇な筋立てではなく、後の展開も容易に想像できる。要するにハリウッド的なのだと思う。この映画ではそれがプラスだった。シンプルなんですよ。そこがおもしろいところ。史実との対比についても、とりあえずは映画的誇張の許容範囲内だと思う。ギリギリなかったとも言い切れないくらいでとどまっている……かな。これアステカじゃないか?っていうところもあったけど。そもそもメスティソの俳優を使うとか、そういうところを挙げていったらきりがない。この映画に関しては、王道のエンタメアクション映画として観たから、細かいところは気にしないことにした。
 そういう脚本上、美術上の細々としたところは置いておいて、やっぱり俳優の身体とそれを映すカメラワーク、映像に惚れ惚れしました。ピラミッドの上から下を見下ろす映像は、ぼくが高所恐怖症気味であることもあって、観ていてけっこう恐ろしかったです。臨場感というか一体感というか、素晴らしかった。
 ラストシーンは観る人で解釈が分かれそう。最後のスペイン人の到来の描写をどう捉えるかということ。ぼくは「うわぁ、来ちゃったよ」というような後味の悪さを感じたが、メル・ギブソンが敬虔なキリスト教徒であるらしいことを考えると、救済として捉えるのが普通なのだろうか。
 ぼくはラス・カサスの本を読んじゃっているから、どうしても薄気味悪いというか、救いのない終わり方に見えてしまいましたよ、と。
 それにしてもおもしろい映画だった。手に汗握ったよ。