ゾディアック

ゾディアック (ヴィレッジブックス)

ゾディアック (ヴィレッジブックス)

 先週くらいに買って、今日読み終えたのだった。文庫ながら600ページもある力作ながら、わりとあっさりと読み終えてしまった。今となってはもったいない気もする。
 これはアメリカで実際にあった連続殺人事件を追ったノンフィクションなのですが、未解決という一点が他のノンフィクションと大きく異なる部分であると思う。例えば、「オリジナル・サイコ」とか「子供たちは森に消えた」といった実録ものは、ちょうど10年くらい前ですかね、ぼくが中学生から高校生くらいだった頃に流行って、ぼくも結構好きなものだからいくつか読んだ記憶があるが、どれも解決している事件だったように思える。チカチロもエド・ゲインも。「マーダーケースブック」なんてのもありましたね。ああ、イル・モストロは未解決か。
 で、このロバート・グレイスミスの筆による「ゾディアック」ですが、これが実にスリリングな読み物で、特に事件が続く序盤から中盤の怖ろしさといったらない。あらかじめこれが実際にあった事件であるということをわかっているからこその怖さだろうか。中盤から後半はゾディアックを追う側のドラマが展開し、いくつかの事件も紹介されるが、ゾディアックが起こしたものなのかどうかさえ判然としないようなものもあり、捜査する側の混乱が文章を通して伝わってきた。何を信じて、何を疑うのかということ。読者としては、作者のグレイスミスの主観がまず第一になるのかなとも思うが、警察の捜査でわかったことの全てをグレイスミスが知っているわけでもなく、途中からずっと霧に包まれているような、そんな印象があった。
 しかしこれは紛れもなくノンフィクションの筆致で、一応こいつが犯人だろうというところまで描かれている。それでもミステリの文脈で読むと、やはりはっきりしないまま終わるというのはドキュメンタリーであっても、釈然としないのかもしれない。だが安心して欲しい。ぼくはミステリ読みではないので特に問題は無い。むしろ、中盤から後半にかけて展開する人間同士のドラマに興奮したくらいだ。
 そして、今公開中の映画「ゾディアック」でもそこが描かれているのだろうと期待している。デヴィッド・フィンチャーがどういう映像をこしらえているかはまだ見ていないからわからぬが、きっといいものが出来上がっているのだろうと期待している。出演俳優も実力派だし、何よりぼくはロバート・ダウニー・ジュニアが大好きですからね。彼が出ているってだけで見たくなる。
 読み終えてからふと思ったのはカポーティの「冷血」との明らかな違いで、やっぱり「冷血」は小説のコードで書かれたノンフィクションだったんだなってことだ。ノンフィクションとノンフィクションノベルの違いがここにある。