松井良彦二作品

 渋谷のアップリンクファクトリーで「錆びた缶空」と「豚鶏心中」を観てきた。前者が1979年、後者が1981年の製作。
 やはり第二作である「豚鶏心中」である。90分の上映時間があっという間に思えるほどおもしろい映画だったのだけれど、と同時に衝撃的と言わざるをえない映画でもあった。
 やはり全編を通して目立つのは屠殺のシークエンスだと思うのだけれど、君が代をバックにかなりの時間を費やす屠殺のシークエンスは確かに衝撃的なものであると思うし、過剰なほどの劇的効果を生んでいると思う。この映像をスクリーンに映そうとしたこと、しかしエクスプロイテーション映画ではないことは監督の才能そのものだと思う。この映画、とにかく映像がいい。
 パートカラーであるということが映像の印象をより深くしている。モノクロのシークエンスとカラーのシークエンスがお互いを強調しあっていて、実に効果的であると思った。終盤の女を追うモノクロの映像や過去の少女を追うやはりモノクロの映像が異様なほど綺麗で、屠殺のシークエンスは逆に徹底的にカラーでどぎつく無感動に描写されている。カラーの場面にはさらに原色を強調したような場面があって、特に赤色が画面の半分くらいを覆うところは圧倒的だった。この着色は何だと思った、
 目立つ場面のどぎつさとは裏腹に、奇妙なほど綺麗な映像で溢れた映画だった。鶏を吊るした終盤のシークエンスはすごいよ。あの色使いと構造は圧倒的だった。窒息するかと思った。シナリオも凄いと思うけれど、やはり映像の吸引力にはすさまじいものがあると思った。あと音響。良い映画だなって思えた、きつかったけれど。
 ぼくは常々優れた表現というのには、作り手と受け手が共犯関係になるような要素が含まれていると思っていて、この「豚鶏心中」はまさにそのようなものだったなと思った。受け手を巻き込まずにはいられないような映画だった。その熱量にはすさまじいものがある。
 本当に圧倒的で、強烈なインパクトを持った映画だったし、それでいて叙情性みたいなものも多く含んでいる。差別や悪意を描写しているけれど、その一方で、根底にある悲しさやどうしようもなさっていうのを捉えているように思えた。これすごいわ、本当。