国道20号線

 渋谷のアップリンクXで「国道20号線」を観た。富田克也監督作。今月末くらいまでは17:00/19:00というスケジュールで上映を続けるようでございます。
 傑作とか秀作とかいうことではなく、今ある姿を見せた映画だと思います。「三丁目の夕日」を観るのなら、これも観るべきだろうと感じた。「三丁目の夕日」がノスタルジアと共にかつてあったものの姿を叙情的に描いた映画だとしたら、この「国道20号線」という映画はいま見えるものを即物的に映したような恐ろしい映画だ。
 宮沢章夫さんの「ニュータウン入口」という芝居があった。今年9月にシアタートラムで上演された芝居なのだけれど、そこでは「整地」によって排除されたノイズが描かれていたけれど、この「国道20号線」ではニュータウンにすらならずに、資本主義に飲み込まれた郊外の姿が描かれる。富田監督もインタビューで言っているようだけれど、誇張や劇的効果をあまり入れずに、本当にまんまの姿を描いているようにぼくには感じられた。
 国道沿いにあるパチンコ店、その向かいにあるサラ金のATM、そしてドンキホーテ。恥ずかしながら、ぼく自身そんな光景を目にしながら、ほとんど意識したことはなかったのだけれど、ものすごく恐ろしい光景ですよね。この映画では「国道20号線」だけれど、ぼくの住むところからさほど遠くないところに環状7号線がある。そこにも立ち並ぶサラ金のATM、その向かいのパチンコという構図がある。気づかされました。
 この映画は淡々としているかというか、ドラマはあるが強烈に劇を牽引するような力強いドラマは起こらない。撮り方のせいかもしれないのだけれど、弛緩してしまったような日常がある。ポツドールの場合はいっけん自然なようで、実はものすごく巧妙に劇が作られているのだけれど、この映画での主人公は刹那的であり、瞬間を生きることしかできないようなシステムに組み込まれてしまっている。その理不尽な頑丈さの中でうごめく人間たちを監督は糾弾するのではなく、「問題はどこなのか」という視点を持って描いている。ただ主人公たちに同情的なのかといえばそれもちょっと違い、ほとんど虫けらを虫けらのように冷静に描いている。この映画にいっさいの救いがないのはそのためだろうと思った。
 自主制作映画で、しかもとりあえず現在はアップリンクXだけでの上映だから、メジャーに注目されることはないのだろうけれど、もっといろいろな人の目に触れればいいなと思った。それこそ「三丁目の夕日」と併映とかね(笑)。富田監督は、今の映画は撮影にしろ上映にしろ小回りがきくようになっているから、機会があれば全国を回って上映したい、というようなことを仰っていた。だから、東京だけでなく地方でも上映の機会はあるだろうし、そういうときに多くのお客さんが入ればいいなと思う。今、まさに観られるべき映画だと思った。まあ、一部俳優の芝居はどうかと思うんですけど。


 この富田監督の映画には強い興味を持ってしまったので、第一作の「雲の上」という映画も観たくて、アップリンクXでの特集上映:日本映画独立愚連隊の一環として上映の機会があるのだけれど、予定が合わなくて観に行けないのが残念なのだった。本当に観たいんですけどね。8mmで140分とか、どんだけ。


 今年の日本の自主制作映画は「Wiz/Out」とこの「国道20号線」と、なかなか収穫があったなと思う。