「百年の絶唱」

 渋谷のアップリンクXで井土紀州監督作「百年の絶唱」を観た。
 アップリンクXでは先々週の土曜日に「国道20号線」と松井良彦監督作の「錆びた缶空」を観て、松井監督と「国道20号線」の富田監督のトークショーも観てきたのだけれど、そのときよりも混雑していてびっくりした。混雑というか満員になっていて、元々置かれている椅子では足りなくなってしまっていたくらいだった。といっても、アップリンクXは30〜40人で満員になってしまうくらいの小さなスペースなのだけれど。ただ、今年になってから何度か足を運んでいるが、ここまでお客さんが入っているときはなかったので、ちょっと驚いたのだった。まあ、そんなことはどうでもいい。「百年の絶唱」だ。
 これが素晴らしい映画で、今まで存在を知らなかったことを後悔してしまうくらいだった。井土紀州監督の名前を初めて知ったのは宮沢章夫さん、スガ秀実さん、花咲政之輔さんが三省堂で「ネオリベ化する公共圏」についてのトークショーを行ったときに確か「レフト・アローン」の話が出たときだったと憶えている。憶えているだけで、実は全然違うかもしれないのだけれど。
 で、今年に入ってから、未見なのだけれど映画「ラザロ」が話題になって、再びぼくの頭ん中に井土紀州の名前がインプットされた。「ラザロ」を結局観に行けなかったのは本当に残念なところなのだけれど、また上映会なり何なりがあるって信じてる。で、今回「国道20号線」ロードショーに伴う日本の自主制作映画上映会で「百年の絶唱」が上映され、観る機会が訪れたというわけなのだった。嬉しかったですね。
 この「百年の絶唱」、8ミリ、90分弱の映像の中に込められた情念みたいなものの強さに圧倒された。最初の方の、作詞家志望の主人公のどうしようもない現状の陰鬱さといったらないし、ワンカットが長いものだから、仕事帰りの疲れた身体には染み過ぎるというか、正直ちょっと辛いかなと感じた。本来のコンディションならどんとこいなんですけど。
 しかしながら、主人公(=平山)が失踪した男(=圭)の記憶とシンクロし始めて、「亀」と出会ってから幕切れまでには心底圧倒された。最後の15分から20分くらいの映像の熱量は半端なものじゃない。走っている圭がトンネルを抜けると平山になっている。第九が流れる中、平山は紀州の廃校に辿り着く。この身体性と映像の強靭さはすごいよ。過去と現在、都市と地方がフラットに並ぶ瞬間を疾走する身体と、その先にある廃墟を映し出す長回しの映像。どう書けば伝わるのか全くわからない。とにかくすさまじい力に満ちた映像だったし、よくライブでベースとかドラムが骨に響いてくるときがあるけれど、終盤、観ているときはあんな感じだった。ぶるぶるきてた(笑)。映像の奇跡ですよ。ストーリーがどうとか8ミリだとか、そんなの些細なことだ。もう脳みそ揺れた。16ミリ版があるみたいなので、そっちでも観てみたいな。 


 今年は新しいものにもおもしろい映画が多かったけれど、この「百年の絶唱」もそうだし、「追悼のざわめき」や「1/880000の孤独」みたいな日本のインディーズ映画の傑作を多く観ることができて、おれは幸福だったし、糧にも少しはなってるかなって思う。欲を言えば、観たいものは全部観たかったですけどね(笑)。
 今年はとくに「追悼のざわめき」ですね。今週末に名古屋、来月には札幌と、再び東京で上映の機会があるので、是非。年末にDVDが発売になりますが、映画館の暗がりで観てこそ良さが引き立つ映画だとぼくは思っています。是非是非。