「恋空」について、続き。

 北さんがブログでぼくの「恋空」感想について書いてくださっているので、反応をしてみようと思った。思ってから、三日くらい経ってしまっているのがおれクオリティ。ていうか、北さんって夏にお会いした方でしたっけ? やばいな、全然憶えてない。かきさんたちとアキバめぐりをしたのが何年も前のことのように思える。
 で、「恋空」なんですけど、まず前提として129分という上映時間は長いよねっていうことを書きたかった。脚本家がまとめきらなかったのか、まとめた上での129分なのかというのが問題になってくると思うんですけど、そこでどう考えても家族劇の部分はいらないなと思えてならなかったわけです。序盤のケータイをめぐる部分はありえないけど、必要かどうかでいえば必要だと思います。
 ポイントをしぼるということは大事なことで、今夏公開の「怪談」は三遊亭円朝の「真景累ヶ淵」を映画に仕組んだものですが、あの膨大な原作からエピソードを抽出して119分に仕立てている。もちろん「真景累ヶ淵」の全貌が明らかになっているわけではないですが、一本の映画としてしっかり成立していた。でもこの「恋空」の脚本は前にも書いたけれど、緩急が乏しくて、全体として散漫だったと思った。129分という長さも一つの原因だと思う。削るところは削ってテンポを上げていかないといかんのです。最近公開された「モーテル」は80分ちょっとの上映時間ですが、ほとんど退屈する時間がなかった。この映画は余計なものが何一つないことでいいものになっている成功例だと思うんですけど、「恋空」はポイントをしぼりきれていないのではないかと思う。クライマックスの場面にしたって、あの鳩はないよ(笑)。
 あと、北さんとの間で微妙に感覚のズレが起きてるように思えるんですが、ぼくはあくまで一つの映画として「恋空」に触れました。だから「『恋空』の基調を為す手口」というのがよくわからないのです。ケータイ小説の映画化ということではなく(何しろ原作を読んでいないので)、あ、ぼくは有楽座で見たんですけど、有楽座で上映される一本の映画として見たつもりです。だから「犬神家の一族」とか「どろろ」とかとあんまり変わらない感覚で見たわけですが、並べるのは厳しいかなと思った。
 「追悼のざわめき」の松井良彦監督が仰っていたことなのですが、松井監督の第一作である「錆びた缶空」は自主制作でぴあフィルムフェスティバルで入賞した映画なんですけど、この映画が池袋の文芸坐で上映されたとき、松井監督は深作欣二監督とかの傑作が上映されたスクリーンに自分の映画がかかったことに感動したとのことでした。その気持ちはぼくも何となくわかるんですが、この「恋空」は有楽座でかかるということを自覚しているのかどうか疑わしかったわけです。一つの映画としての完成度を高めるためにも、ケータイ小説らしさみたいなものは無視して良かったのではないかと。もっとも、そこが屋台骨なのかもしれないのですけど。この素材なら、もっと良くできたのではないかと思いました。
 「モノ」という言葉のダブルスタンダードについては北さんの仰る通りで、ミカの大雑把さというか、人間の都合の好さという意味で、あっても良かったかなと思います。ちょっと目から鱗でしたけど(笑)。あ、エンドロールのミスチルはないですよ。そこは譲らない。ラジカセでミスチルを「いいよね」とか言うシーンも正直どうかと思った。現在のミスチルの支持層が女子高生だとは思えなかったので(笑)。
 以下は全然関係なくなるわけですが、最近ひとつ気づいたことがあって、それはテネシー・ウィリアムズの「ガラスの動物園」との対比でした。ケラの新作「わが闇」→ウディ・アレンの「漂う電球」→「ガラスの動物園」と連想を進め、「ガラスの動物園」を読み直していたわけですが、冒頭で以下のようなモノローグがある。

この劇は追憶の世界です。
追憶の劇だから、舞台はほの暗く、センチメンタルであって、リアリスティックではありません。
テネシー・ウィリアムズガラスの動物園」(小田島雄志・訳)

 映画の「恋空」もやはり追憶の劇です。それは全編にわたって時折出てくるポエムによって明らかになる。ヒロへの想いを描いたものであるが、たぶんガッキーの声を通すから味があるのであって、文章でやられても恥ずかしいだけだと思うんですが、そういうのはたぶん原作でもある。映画ではふんだんにあった。
 不思議なのは、「ガラスの動物園」では最初からリアリスティックではないと言っているのにもかかわらず、芝居自体は陰鬱で現実的な痛さで満ちている。一方の「恋空」は衝撃の実話というコピーがあるにもかかわらず、北さんが書く通りにファンタジー的ですらある。この差は何なんだと思った(笑)。
 なんだか自分でも何を書いているのかわからなくなってきましたが、やっぱりこの映画はそんなに悪くはないという結論になりそうです。ガッキーによる挿入歌は結構良かったし、やはり結論としてはガッキーかわいいよガッキー。