桐野夏生

 最近、かなりはまっているなあって思う。いや、おもしろいんですよ、この人の小説は。ミステリ寄りの作家だと思って敬遠していた自分が恥ずかしいくらい。「I'm sorry mama.」はひとつのピカレスクロマンとしてかなりおもしろく読めたし、フィルムノワールが好きなぼくとしては、肌に合う感じがする。
 文庫本を適当に買って読んでいるんですが、どれもおもしろい。短篇集の「錆びる心」は筆の幅の広さを感じさせる小説集だった。にじみ出るような悪意を描いたものからブラックユーモア風味のものまで。「月下の楽園」が一番おもしろく読めた。
 「リアルワールド」は女子高生4人と母親殺しの少年の一人称によって構成されていて、ちょっと荒いかなと思うところもあったけれど、「取り返しのつかないこと」という一点で突破を図って成功している小説だと思った。
 終盤にあるファックシーンはすごいと思った。単純。あの場面はこの小説で一番決定的だったと思う。緻密な構成の中にああいう衝動的、暴発的な場面があるのが桐野小説の魅力だと思うんですけどね。
 後半、かなり派手にドラマが動いているのに、小説自体はどこか観念的なままという構造もおもしろい。母親殺しの少年の逃避行というサスペンスではなく、基本的にはそれに関わっていく女子高生たちの心理劇であるというところがぼくはいいなと思った。スリルとサスペンスではなく、心の内のもがきとか疎外感とか、そういうのが描かれているところがいいですね。
 次は何を読もうかしら。かしら。

錆びる心 (文春文庫)

錆びる心 (文春文庫)

リアルワールド (集英社文庫(日本))

リアルワールド (集英社文庫(日本))