No Country For Old Men

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

 第80回アカデミー賞で作品賞、監督賞他を受賞した「ノー・カントリー」の原作小説。クライムノベルというかノワールというか、そんな雰囲気なんですが、これがとてもおもしろかった。映画「ノー・カントリー」はコーエン兄弟だし、トミー・リー・ジョーンズジョシュ・ブローリンハビエル・バルデム*1と役者が揃っているので観に行こうと思っていて、まあせっかく原作があるのだから読んでみるかと軽い気持ちだったのだけれど、おもしろかったねえ。痺れた。
 逃げる男モス、追う殺人鬼シュガー、そして保安官のベルという三人の人物がいて、それぞれの行動を描いていく。おもしろいのは心情の描写がほとんどなくて、行動だけで思いをわからせるという文章になっていたところだと思う。すごい好みだった。見習わないと。
 陰惨な描写で溢れる中盤までは、この小説の邦題通りに血と暴力そのものなのかもしれないのだけれど、意外だったのは終盤の展開だった。惨劇を止められなかった保安官ベルの視点で描かれるその後を通じて、荒廃した大地に立たされているような気持ちにさせられた。映像が浮かぶとかそういうことじゃなくて、劇中で流れた血が渇いて大地にこびりついていく様を見せつけられているようだった。本当、終盤はぐっときたなあ。
 好きな小説だった。コーマック・マッカーシーの他の小説も読んでみようと思った。

*1:映画版の「夜になるまえに」でレイナルド・アレナスを演じた俳優。名演でした。