「ミスト」

 ようやく「ミスト」を観たのだった。スティーブン・キング原作。原作は傑作、そして名作「ショーシャンクの空に」のフランク・ダラボンが監督だけあって期待は高まる一方なのだったが、佳作どまりなのが残念なのだった。以下ネタバレ満載の感想。JCの「ゴースト・オブ・マーズ」についても少しネタバレ。
 まずホラーとしては落第だということを書いておきたい。怖くないのである。序盤の倉庫/シャッターの場面で「ザ・グリード」のような触手をCGでこれでもかと出してしまったところで、ミストオワタ\(^o^)/と思った。もちろん「ザ・グリード」はB級映画の傑作だし、あれは活劇だからクリーチャーがどんどこ出てきても問題はないのだけれど、"霧の中に何かがいる"というシチュエーションが重要視される今作ではここがダメだと思った。
 不思議なのは、その後に弁護士やバンダナが霧の中に出ていくシーンがあって、ここではクリーチャーの姿を一切出さずに惨劇を描いている。ここはさすがはダラボンの演出力と思わせるくらいに良かったし、全編でもっともスリリングなシーンであると思うのだが、他のシーンではクリーチャーをばんばん出してしまっている。どうしたことだ。はっきり書くけれど、クリーチャーを出すことよりも出さない方が怖いのだとぼくは思う。怪獣が暴れる、そこに恐怖はなく、ただ暗がりにじっと佇む何かにこそ恐怖はあるのだ。
 しかしこの映画がそこで駄作に落ちることはなく、むしろ極限状況下の人間ドラマとして展開する。ここがおもしろいところである反面、憎まれ役になる人物の描き方が浅いというか、極端にデフォルメされているように思えた。もっとも、二時間強という尺に収めなければならないのでしょうがないところだとは思う。普通にハラハラしたしね、観ている間は。
 この映画の最大の問題点はラストにあるのだと思われる。かなり煽ってるしね(笑)。実際、衝撃的なラストではあったけれど、ぼくはこの幕切れはダメだと思う。けっこう原作には忠実で、幕切れだけ書き換えているので微妙に繋がりが悪いというところもあるが、やはりこんなひねくれた終わり方はアメリカの映画っぽくないなと思った。それは最近の映画にも言えるのかもしれないのだけれど、救いのない終わり方をしている映画が多いなって思うし、どうなんだろうね、そういうの。
 帰り道に思ったのは、やはりジョン・カーペンターは偉大だなってことだ。どうして「ゴースト・オブ・マーズ」が良いと思えるのか、あらためて考えてしまった。明らかに絶望的な状況であるにもかかわらず、異様にかっこいいのだ。痺れるような幕切れなのだ。でもこの映画は本当キツいよね。息子他を撃ち殺した後に霧が晴れるっていうのはひどいよ(笑)。しかも最初にスーパーを出てったママンは生きてるっていうね。ひどいな(笑)。
 何より子供を殺しちゃうっていうのがキング原作をないがしろにしている。キングはよくこの終わり方を認めたもんだ。子供がこんな殺され方をするキング小説ってないと思うんですね。ダラボンはキングをわかってそうで実はわかってないのかな。
 そもそも霧が晴れちゃうのはいかんと思うのだ。まあ、ぼくは青春時代をキングに捧げたキング原理主義者なのであれなんですけど。らしいといえばらしいが、キング小説のテイストはほとんどないと言っても言い過ぎではなかろう。そもそも、キングの小説を映画にする場合、監督の作家性を全面に出すか、ストーリー分を抽出するか、どちらかじゃないと映画としてはおもしろくならない。「シャイニング」、「ショーシャンクの空に」、「チルドレン・オブ・ザ・コーン」を比べてみればよくわかる。キング映画の多くが残念な出来になるのはそのためなのだ。
 唯一キングのテイストとおもしろさが両立した映画がある。それがキング本人が監督した「地獄のデビルトラック」だ。世間一般の評価は低いが、キングらしさが一番出ているのはこの映画だと思うし、ぼくはおもしろいと思う。B級映画的に。御大本人も出演しているしね(笑)。
 話はそれたが、「ミスト」はおもしろい映画ではあるけれど、絶賛するようなものではなかった。ていうか、ダラボンなら結末を書き替えなくてもいいものが撮れていたのではないかと思うし、映画としてもすっきりしてたんじゃないかな。この映画のラスト15分はDVDの特典映像で良かったと思う。
 この映画でおもしろかったのはむしろ映像面で、これ、屋内のシーンは全部手持ちで撮影してるよね。調べてないから実際はわからないけれど。自分がそこにいるような映像感覚で、すごい臨場感があってよかったと思う。エンドロールではAカメラとBカメラってなってたから、カメラマン二人使ったのかな。一方でスーパーの外からの、たぶんクリーチャー主観のゆったりした映像が何カットかあったけど、そこも良かった。映像は絶妙だったと思う。撮影と編集は良い仕事をした。
 だからこそ惜しいなあと思う。ここまではっきりと皮肉を提示するような終わり方は好きにはなれないのだった。いや、冒頭の一家の場面で、アトリエに「遊星からの物体X」の絵が置いてあったり、パパンが描いてるのがどう見ても「ガンスリンガー」だったところで掴みはOKだったんですけどね。ほんと、惜しいぜ。


 そういえば、ビリーくんはかわいいんだけどどこかで見た子だなって思ってたら、「バベル」に出てたのね。大きくなったなあ。ビリーかわいいよビリー。