ホラー

 角川ホラー文庫から出ている「夏の滴」を読んだ。日本ホラー小説大賞へ投稿予定なので、その様子を探るためでもある。おもしろいけど、おもしろくなかった。

夏の滴 (角川ホラー文庫)

夏の滴 (角川ホラー文庫)

 序盤のジュブナイルっぽい雰囲気が徐々に不気味でグロテスクな色の塗られていく様は良かったと思います。一気に読ませる感じでした。どうなっちゃうんだろうと何度か思った。
 ただこれをホラーと呼んでいいかどうかは微妙、というかぼくのホラー観とは合致しない小説でした。グロくはあるが、怖くはない。ミステリアスでもあるけれど、まったく怖くなかった。そこが残念だった。
 「学校であった怖い話」の小説版の復刻が同人で出ていて、それを読んだときにも思ったのだけれど、ゴア描写が即恐怖につながるかといったらそうではなくて、むしろ直接的な描写が恐怖を遠ざけることもあると思う。「学校であった怖い話」の小説版はまったく怖くなかったし、正直おもしろくもなかった。これは作者の方とぼくとの考え方の違いなんだろうと思う。あとがきに「一番怖いのは人間」と書いてありましたが、ぼくは幽霊の方がはるかに怖いと思うし、人間の心の闇なんてたかが知れているとも思う。何しろ幽霊は人と違って、逃げようがないから怖い。不合理だし。
 話がそれましたが、「夏の滴」は後半に入るころから不気味さというよりもただのゴア描写と設定の異様さばかりが目立つようになって、だんだんおもしろくなくなっていった印象です。明らかになっていくとすっきりはするんだけど、それはイコールおもしろくなくなっていくっていうことなんだろう。得体のしれないものへの緊張感が薄れてしまうからなのかもしれない。いや、つまらなくはないんだけど。
 近親相姦の場面、あと最後の締めのところは抜群に良かった。特に前者。ああいうエロティシズムに恐怖を絡めれば、傑作になるんだろうなって思った。残念ながら、この小説では恐怖度が薄いためにエロ度が目立ってしょうがなかった。怖くないっていうのは致命的だよなあ。