日本ホラー小説大賞

 大賞受賞作を読み終えたのだった。

庵堂三兄弟の聖職

庵堂三兄弟の聖職

 ぼくのホラー観とはまったく合わない作品で、家族劇としてはおもしろかったんですが、ホラーとしてはつまらなかったです。ていうかこれはホラーじゃない、少なくともぼくにとっては。恐怖も怪奇も幻想も、この小説の中にはなかった。
 今までも何度か書いていることですが、ゴア描写があればホラーかというとそんなことはないのです。この小説では人体の解体や暴力描写、あるいは汚い罵りが何度も出てきますが、それらが恐怖に結びつくことはなかったです。家族のドラマとして、絆の太さの描かれ方などにはちょっとグっときましたが、ホラーという点からすると、怖さというのを感じることは最後までなかったです。
 この小説においては生と死が明確に線引きされていて、それらが拮抗することがない。そもそも工房で行われることは、死に対して、生きる人が何をできるかということじゃないですか。そこにあるのは尊敬であって、原始的な恐怖ではない。そう考えると、最初っからブラックコメディにふっていた「とむらい師たち」は賢明だったのだと思う。さすがは三隅研次
 高橋克彦氏は映像にすれば恐怖空間が広がる、といったことを書かれていますが、ここにはぼくは全面的に反対です。怖いわけがない。少なくとも映像表現に関しては小中理論を凌駕する方法論はないと思うし、この小説を映像化しても、グロテスクなだけで恐怖はないと思う*1
 小説としてはまとまっているし、おもしろかったと思うんですよ。ただ恐怖っていうのはなかった。そこが、ホラー小説大賞受賞作としては残念でした。

*1:もっとも工房の美術をどうするか、作業中の長男に見えている光景をどうするかでどうにか怖くはできるかもしれない。