日本ホラー小説大賞

 長編賞受賞作を読み終えたのだった。以下ネタバレあり感想。

粘膜人間 (角川ホラー文庫)

粘膜人間 (角川ホラー文庫)

 大賞受賞作の「庵堂三兄弟の聖職」と同じくこれもぼくのホラー観とは一致しない小説で、少なくとも怖い小説ではなかった。つまらなくはなかったです。サスペンス性が大きい分、「庵堂三兄弟の聖職」よりも読んでいるときは楽しめた。
 ただこれはホラーではないと思う。最初のところは、いろいろそぎ落としていくと結局のところは弟をいかに排除するかという犯罪小説だと思います。それが極端な暴力性と下品さで味付けされている。グロテスクな描写が多いのであれですけど、ほとんどブラックコメディに近いテイストでした。河童の勝手な行動で計画が破綻していく様なんて、まさに喜劇的だった。読んでいるとき、誰だって「こ、こいつら使えねー」と突っ込んじゃうのではないかと思った。
 決定的にホラーではないと感じたのは河童三兄弟の長男であるモモ太が憲兵の鉄砲を恐れて逃げてくるところで、いよいよホラーではないと思ったのだった。裏表紙のあらすじを読むとレザーフェイスみたいな怪人が出てくるのか思ってしまうのですが、実際に出てくるのは力は強いけどどこか足りない河童っていう落差。結局鉄砲でどうにかなっちゃう存在であるというところで、ここに恐怖はないなと感じた。
 さらに怖くなくなるのは3章に入ってからで、末弟の心理というものを描いてしまうからだった。正体不明な部分を抱えている方が怖いと思うんですけど、そこら辺をどんどん明らかにしていってしまう。河童についてもそう。だいたいこの人たち、妙に人間くさくてね(笑)。ただ末弟とモモ太が対峙する幕切れは良かった。ここで終わるか!って膝を打ったもの。恐怖はないけれど、ひとつのアクションの形としてとても好きです。
 拷問をめぐる第2章にもやはり恐怖はなかった。一方的な分、残酷描写がいちばん目を引くのはここかなあ。処刑の場面で、蕎麦を食べさせてから首を落とすっていう趣向(切断面から蕎麦が出る)があるんですが、そこはやっぱり三段斬りで行くべきだったろう常識的に考えて。処刑の描写はやっぱりグロテスクなんですが、なんだろう、それだけだった。はしゃいだような台詞とか見物人の拍手だの指笛だのが不気味さを削いじゃっている気がする。黒沢清監督の「カリスマ」の処刑シーンの方がはるかに不気味でぞっとする。あの事務的な静けさの中にこそ、真の異様さがあるんだなとわかった。いや、盛り上げようという気持ちはわかるんですけど。
 なんだかんだあっという間に読んでしまったので、おもしろい小説だということに違いはないと思います。ただぼくはホラーではないと思うなあ。怖くなかったし。あと全体的に下品なところはちょっとどうかと思った(笑)。