ホラー

 ガガガ文庫ラノベでホラーというと読む前からなにか残念な感じがするというか、結局ファンタジーやら何やらが混ざってしまうような印象があるんですが、これは正統派のホラー小説でした。良かったです。怖かった。

幽式 (ガガガ文庫)

幽式 (ガガガ文庫)

 この小説が最高に盛り上がるのは、前半にある幽霊屋敷探索の場面で、過去が明らかになるにつれて記憶との齟齬が生まれていくというところだと思う。そして幽霊が現れるに至って、これこそが恐怖だと確信した。素晴らしい場面でした。幽霊が出ればもちろん怖いんですが、小中理論でいうところの『情報の統一』が使われている重ね技に感心した。ラノベでもここまでできるのだ。
 キャラクターの過剰さが気になった。神野江ユイの造形が嘘っぽいというか、説得力がない気がした。いちいち動きが派手だし、もうちょっと抑えた方が全体の雰囲気に合っていたと思うんですけどね。一方、主人公はヘタレという特徴があって、特に前半は彼が感じる怖さがかなりダイレクトに伝わってきたのが良かった。等身大で良い。
 この小説の問題というか、やっちまったなと思ったのは後半。対象が人間の狂気*1にシフトしてからがどんどん怖くなくなっていって、物語のつじつまを合わせるためだけのものであるように感じられてなんともいけなかった。そこを一人称で書いているのはさらに良くないと思った。主人公がおかしくなっているだけだっていうのはわかりきっているのにしばらく引っ張るのだもの。
 思えば、キューブリック版の「シャイニング」も前半はいい雰囲気だったのに後半がダメだった。オーバールックホテルの悪霊、さらにはその土地そのものが忌まわしいというのが怖いところなのに、映画ではジャック・ニコルソンの顔が怖いという方向にシフトしてしまっている。そりゃあ半狂乱のジャック・ニコルソンが斧を片手に襲ってきたら怖いだろうけど、それはちょっと違うだろうと思ってしまう。
 最後の締めを読む限り、シリーズ化するんじゃないかと思うんですけど*2、短編連作にすべきだよなと思った。物語としての長さを求めるよりも、この主人公が怪奇なことに巻き込まれていくような短編にした方が効果的なはず。ていうか、そうして欲しい(笑)。
 それにしても、彼岸・此岸という言葉や人物の役回りを考えると、この著者はハスミンの「アカルイミライ」論を読んだんじゃないかと思ってしまった。オダギリジョー=主人公、浅野忠信=神野江、藤竜也=ロリ顔巨乳先輩、なんてことを考えたんだけど、違うか。

*1:正確にいうと、主人公の錯乱。

*2:もちろんこの本が売れるかどうかに寄るとは思いますが。