ユヤタン

 「新潮」の今月号にユヤタンこと佐藤友哉の新作「デンデラ」(620枚)が一挙掲載されているので、とりあえず買って読んでみたのだった。

新潮 2009年 01月号 [雑誌]

新潮 2009年 01月号 [雑誌]

 これが全然合わなくて、もっともぼくは佐藤友哉の小説との相性が悪くて、三島由紀夫賞受賞の「1000の小説とバックベアード」もダメだったのだけれど、これはもっとダメだった。終盤くらいまではほんとにダラダラとしていて、うんざりした。終わり方は良かったけれど、あくまで終わり方であって、その切れ味が全編にあればなと思いました。つまらなかった。
 全体として冗長なんだと思う。これはぼくの最近の好みが影響しているのかもしれないのだけれど、もっと端的に簡潔に書けばいいのになと思うところがいくつもあった。例えば、老婆の一人が腸を露出しながらも熊を罠に誘うというところがあった。ここだって、正直腸が出ている出ていないというのは展開に関係ないし、描写がなくても特に問題はないと思うんですよ。熊にやられて、腸が身体から飛び出てしまっている。それは一言で済むし、くどくどと描写する必要っていうのがぼくにはよくわからなかった。腸を腕に引っかけるなんて描写はいらんと思うし、そういう「いや、これいらないだろ」っていうところが多くて、戸惑うばかりだった。
 たとえば熊の心理描写っていうのもいらないと思うんですよ。熊の心理が描かれれば描かれるほど、どんどん熊のおそろしさが損なわれていく。トビー・フーパーの「悪魔のいけにえ」では、レザーフェイスが何気ない日常的なしぐさを見せたり、あのままでいるという姿を見せることで異様さがどんどん上がっていくという巧妙な演出(あるいは偶然の産物なのかもしれないですが。)がなされていましたが、この小説で熊に対して行ったことはその丸っきり逆だなと感じた。しかもどんどん小物になっていく(笑)。理不尽な存在の描き方としてはどうかと思った。
 ただ最近のぼくの好みがシンプルな方向に向かっていることがこの小説をおもしろく読めなかったのかなとも思っています。上に書いたような不要な描写が小説の流れを滞らせているように思えるし、段取りが台無しになっているように思える。300枚〜400枚でじゅうぶんだったと思うんですけど、分量的には。どうして600枚もあるのかよくわからない。
 あとやっぱり台詞を書き過ぎなんじゃないかっていうね(笑)、最近なるたけ台詞を書かない方向に進みつつあるぼくはそう思ってしまうわけです。それに妙に台詞がマンガっていうかラノベっぽいといか、口語じゃないんだよね、この小説。どうでフィクションですし、いいんですけど。ただぼくは婆さんだったらもっとふがふがしてそうだとか考えてしまうんです(笑)。
 主人公がけっこう揺れ動いているところもどうかと思うんですよ。ある程度善悪を超えて、小説を導くような存在なのかなと最初は思ったんですが、どうやら違いそうだ。そしてそういった役回りの人物はいなくて、けっこう混沌としている。読んでいて、これからどうことを運ぶのだろうと何度か思いました。ただその揺れ動きがまるで乙女心のような若さの象徴して描かれているのだとしたら、それはすごいことだなとも感じた。だいたいこの小説に出てくるのは老婆ばかりなんですが、妙に若々しいし(笑)。でも違うかな。
 まあ、つまらないことはつまらないんですが、つまらないだけではなくて、どこか引っかかるところのある小説でした。でも「1000の小説とバックベアード」よりも苦手でした。ですます調が嫌いっていうのもあるんですが(笑)、うーん、やっぱりタイトさに欠けるっていうとことなのかな。やっぱり長いよ、これは。