なかなか怖かった。

 シアター・イメージフォーラムで観た「口裂け女0 ビギニング」はなかなか怖い映画でした。今年の春先に公開された「口裂け女2」がぼくにとっては不満足な出来だったので、ほとんど期待していなかったんですけど、場所がイメージフォーラムの地下のスクリーンだったということもあったのか、終始不気味でいやーな感じのする映画でした。(以下豪快にネタバレ感想)
 いい意味で裏切られたのはこの映画が口裂け女ものというよりも幽霊映画として作られている点でした。簡単に説明してしまうと、かつて口裂け女に仕立て上げられた女の骸骨を発見してしまった姉妹にその幽霊がとりついて、第二の口裂け女が生まれるという筋立てなんですけど、幽霊の出し方がいいんだ。例えば姉妹の姉がベンチに座って週刊誌や新聞記事を読んでいるところを刑事が目撃するシーンがあるんですが、ここで姉の後ろの方にある木の下に幽霊がぼんやりと立っているわけです。これが怖い。映っちゃいけないものが映っちゃってる感がある。そして見ちゃいけないものでもある。つまり刑事はもう助からない(笑)。
 幽霊は頻繁に現れるんですが、基本的には何もしない。あ、とりついちゃうような場面もありましたが、あれはよくわからなかったな(笑)。その後もわりと平然としていたし。襲ってくるようなことはない。他にも声をいじっていたり、幽霊の顔だけをぼやけさせていたりする。小中理論を地味に実践しているように思えますが、監督は「ほんとにあった呪いのビデオ」のディレクターをつとめた方なので、自分がやってきた方法を劇映画に応用したのかもしれない。その一方でドキュメンタリー的な作りになる場面もあって、観ている間、次はどうするんだろうとストーリーよりも描写が気になるような映画でもありました。刑事たちが帰ってから、自宅の台所で水を飲んで二階に上がるというシーンをワンカットでやったところが印象的。
 ただ黒沢清監督をはじめとした、Jホラーの影響下にあるっていうのは間違いないと思う。例えば二階に妹を閉じ込めたところで刑事がやってきて、応対をしていると二階から音がする――というところは「降霊」っぽいし*1、若い刑事が先輩刑事を車で轢くところは「CURE」っぽいし、ラストシーンは「カリスマ」っぽかった。ただ車ではねるところは驚かせようとしているだけなので、あんまりいいカットではないと思う。あそこは車に乗ってエンジンを入れて柳ユーレイを轢くってところまでワンカットで全部描写すべきだと思うんですが。霊能者が出てくるところは高橋洋さんの脚本みたいだなと感じましたが、その後を考えると楳図かずお先生の「影亡者」っぽくもある。
 この霊能者が出てくる場面が良いのは思わせぶりなことを言いながらもほとんど何も説明しないで帰っていくというところで、霊能者をヒロイックに扱わないという小中理論がここでも出てきてるのかなと思いました。しかもその後自殺したというのが週刊誌の記事で明らかになるだけ。もっとも、このエピソードは都市伝説の「残念ながら地獄に落ちました」(だっけ?)から作ったのかもしれないですが。
 そういえば後半になると、だんだんとスプラッター色が強くなってくる構成でした。前半は殺しの場面を省略して死体だけを映して回避していたんですけど。そうそう省略といえば、姉妹の姉が婚約を破棄する場面を【婚約者と歩く姉→座っている二人、男は煙草を吸っている→一人で歩いて行く婚約者】という感じで台詞なしでやったのは好きでした。それでじゅうぶんなんだよね。
 終盤、姉妹の姉は口裂け女誕生の秘密を知るわけですが、その場面の古い写真のまがまがしい雰囲気も良かった。噂の伝播の実験として口裂け女なるものを作り上げ、真実味を強くするために妻に催眠術をかけて自分が口裂け女であると思わせる。が、催眠が解けない。それどころか妻は日に日に口裂け女になっていく。というところをモノローグと古ぼけた写真で見せるわけですが、妻が映された写真のいやーな感じはかなりのものでした。劇場版の「リング」の呪いのビデオで袋をかぶった男が指をさしているというのがあったと思うんですけど、あれほどじゃないけど、ひとを不安にさせるようなものだったなあ(笑)。
 ミケーレ・ソアビの「アクエリアス」みたいなシーンもありましたが、いろいろと過去のホラー作品を思わせるようなシーンの多い映画だったように思えます。シナリオは一応は何がどうなってたってのは明らかになるんですが、幽霊が絡むだけあって不条理ではあるし、ジャッロっぽくもある。主演のアイドル二人の演技はかなり厳しく、ああ……っていうところもありましたが、逆に幽霊の描き方はかなり良かったと思う。俳優を演出するのはそんなにうまくないのかな。ただ幽霊が人ならざる動きを見せるところまではいっていなかったので、そこは残念でした。異常さがないんだよね。傑作とまではいかないけれど、思ったよりおもしろかった、怖かったという印象です。
 最後にひとつ。かなりの不条理さを感じたところがあって、姉妹が終盤で逃げ出すんですが、行き着く先が口裂け女を作り上げた教授の家だってところ。ストーリーの流れがそう向いているので不思議ではないんですけど、そこで憑りつかれている妹の方がかつての口裂け女が着ていたコートと凶器の鎌を見つけるところはぞっとしました。これは逃げられないぞっていう(笑)。もっとも、逃げた先が一番危険なところだったっていうのは常套手段ではあるんですが。なんかけっして逃れられない運命にからめとられているような感じがして、うわーって感じだった。

*1:「降霊」自体が翻案ですけども。