桐野夏生

 渋谷の紀伊国屋でサイン本が売られていてつい買ってしまった。桐野夏生の書き下ろし新作。

女神記 (新・世界の神話)

女神記 (新・世界の神話)

 ぼくはですます調の小説が苦手なのです。もちろん坂口安吾の「桜の森の満開の下」みたいにいいなと思えるものもあるんですけど、基本的には苦手。特にユヤタンがですます調で書いたときの小説が苦手(笑)。
 ま、そんなことはどうでもいい。この「女神記」もですます調の文章なんですが、これがぴたりとはまっている印象で、ほとんど一気に読んでしまったのだった。おもしろかったです。
 桐野夏生イザナギイザナミを描くということで読む前からどんな感じなんだろうといろいろ想像しちゃったんですけど、いい意味で裏切られた。善悪をはるかに超えた、行動の原理みたいなものが描かれていたように思える。神様だから、善悪なんて些細なことなんですけど。
 それがつまり「女は殺し、男は産んだ」ということなんだと思う。いっけんひっくり返っているんですけど、イザナミイザナギの行動はまさにこれに支配されている。神様を支配されているって書くのはどうかと思いますけど(笑)。逆に人間の女であるナミマは物語序盤で子を産んで、男(=夫)に殺されてしまう。しかしこれが徐々に裏返っていくところがスリリングでした。
 古事記の世界を描きながらも、確実に現在とリンクしているところが桐野さんの腕が確かな証でしょうか。かなりおもしろい小説だった。そういえば、稗田阿礼が出てくるんですが、なんかちょっと萌えキャラっぽかった(笑)。もちろんありだ。