『永遠のこどもたち』

 素晴らしい映画を観た。「永遠のこどもたち」という題名、予告編、あるいはチラシ等からのイメージとは異なる、優れた幽霊屋敷映画でした。スピリチュアルドラマなんてとんでもない。怖かったです。以下ネタバレ感想。

永遠のこどもたち
自らが育った孤児院を、障害を持つ子供達のための施設に再建することを決めたラウラは、夫と息子のシモンと古い屋敷へ引っ越してくる。しかしその屋敷で、シモンは空想上の友達と遊ぶようになり……。

http://eiga.com/movie/54068

 幽霊ものはとにかく怖い。そんなイメージがあります。「怖い映画って例えば何?」と聞かれたときに真っ先に思い浮かぶのは「回転」と「たたり」なんですが、この映画もその後に作られた「ヘルハウス」等と同じく、それらに連なるまっとうな幽霊屋敷映画に仕上がっていたと思います。つまり怖い。
 何が怖いかって幽霊が怖い。この映画では幽霊とは関係なく、観る者をびっくりさせるようなシーンがいくつかあるんですが、ぼくはそこよりも幽霊がその存在をちらつかせるところやはっきりと立っているところの方が怖かった。
 名匠ロバート・ワイズによる傑作「たたり」へのオマージュと思われるシーンがけっこう印象的でした。なにかがベッドに入ってくるところ。「監督、これぜったい『回転』と『たたり』を意識してるよな」と思ってたんですが、上映後に買ったパンフレットにこう書いてあった。

「私の頭の中はジャック・クレイトンの『回転』やロバート・ワイズの『たたり』のような昔のホラー映画のイメージでいっぱいで、結局スタジオでクラシックな手法で撮影しなければならなかった」

 そうだろうそうだろう。なんか嬉しくなっちゃった(笑)。こういう映画は大好きです。「1408号室」やこの「永遠のこどもたち」といったしっかりとした幽霊ものの映画が観られるのは嬉しい。「ミラーズ」は微妙だったけど……。
 秀逸だったのは中盤くらいにあった場面で、霊媒師がやってきて孤児院中に暗視カメラを仕掛けて、霊媒をするというところ。すごい怖かった。おそらくこれからこの暗視カメラの映像に何かが映るぞ、見えてはいけないものが映り込みそうだという緊張感。ここでは映らないんですけど、マイクが拾った子供たちの声がまた禍々しくていい感じだった。暗視カメラとか防犯カメラとかの映像を使った演出はぴたっとはまるとほんとに怖いです。
 あともう一つ、最後の幽霊の出し方。「たたり」は幽霊を出さないで怖がらせることに成功した映画ですが、出てくるとやっぱり怖い。中川信夫監督の「東海道四谷怪談」も音響や美術の雰囲気がそもそも怖いですが、お岩様の亡霊が出てくればやっぱり怖いのです。
 この映画の終盤でも、このタイミングで来るだろうというところでどーんと出てくる。ストレートにぞわっとする。しかも特殊なことは何もしていなくて、カメラワークだけで見せている。たしかワンカットだった。このシンプルさがいいんだ。幽霊はただ立っているだけ。それがいい。その後、子供の幽霊はその原理の中で動くことは動くんですけど。
 主役が女性で、見ようによってはその人の不安定さが生んだ幻影とも解釈できるところも「回転」や「たたり」と似ているところ。ちょっと違うのはこの女性が母親で、積極的に行動をしていくところ。「回転」のデボラ・カーに似ているかも。ただやっぱり21世紀に作られた映画らしく、戦う女性ヒロインの要素がかなり入ってきていると感じました。
 結末は好みではありませんでした。恐怖からファンタジーへジャンルが移行している。それは「ピーターパン」が引用されることから明らかだと思います。最後まで恐怖を貫くのではなく、よーく考えると後味はそんなに良くないけど、口当たりが悪いわけでもない結末を選択したのはビジネス的なことを考えてなのかなとも思いました。
 しかし同じスペイン映画の「機械じかけの小児病棟」やこの映画の製作を担当しているギジェルモ・デル・トロの「パンズ・ラビリンス」の結末を考えると、スペイン(と中南米)ではこういうのが好まれるというか、こういう死生観なのかなとも思った。ぼくはやっぱり死は不条理で、しかし普通に存在しているものだからこそ怖ろしいという黒沢さんの考え方に共感してしまう。黒沢信者だし。でも綺麗にまとまった終わり方だったと思います。ちょっとうるっときたし(笑)。
 とにもかくにもいい幽霊映画でした。公開規模が小さいのが惜しまれる。シネカノン有楽町で観たんですが、狭くて好きじゃないな、あそこ。もうちょっと大きい映画館で観たかった。