唯野未歩子さん

 女優唯野未歩子さんの小説「三年身籠る」を読んだ。

三年身籠る (文春文庫)

三年身籠る (文春文庫)

 女優としては黒沢清監督作の「大いなる幻影」で印象深い存在感を示した唯野さんですが、小説となると話は別だろうと思っていたんですが、どっこいこれがすこぶるおもしろい小説だった。

なんでこの子は生れてこないのかしら……
冬子は29歳の妊婦だが、予定日を過ぎても子供は生れてこない。そして妊娠3年目、冬子の周囲に思わぬ事件が起きたおかげで…
http://www.bunshun.co.jp/book_db/7/76/20/9784167762018.shtml

 文藝春秋のサイトでは上のように紹介されていますが、実際は冬子とその妹である緑子の姉妹が軸になって描かれます。大きな事件は起こらず、日常的なことが描かれるわけですが、唯野さんの筆致がじつに丁寧で読んでいておもしろい文章だった。くすっと笑ってしまうような文章もあれば、ぞくっとするようなところもあり、とにかくおもしろかった。
 ユーモア小説に近い感じもするけれど、妙に生々しい部分もあって、なんだか変な小説ではあった。もちろん良い意味で。明らかにおかしなことが起こっているし、登場人物の行動もあんまり常識的ではないんですけど、不思議と読んでいる間は気にならない。それは文章の丁寧さによるものだろうし、一つ一つの細部がしっかり描かれているからなんだろうと感じた。なんだかちょっと黒沢さんの小説の文体に似てるなーと感じるところもあったけれど。
 いい小説を読んだなあと思いました。ほんと、感服した。唯野さん、才人ですね。他にも小説を書かれているようなので、それも読んでみよう。