エル・スール

 先日、ユーロスペースリバイバル上映中の「エル・スール」を観に行ったとき、受付で「エル・スール」の小説本が売られていたので、喜んで買った。19日発売と聞いていたんですが、先行発売をしたようです。そのような宣伝は特になかったのだけれど。
 で、さっそく読んだのですが、とにかく素晴らしい小説でした。

『エル・スール』
アデライダ・ガルシア=モラレス:著
野谷文昭・熊倉靖子:訳


心を閉ざして逝った父、
その秘密を追って、少女アドリアナが訪ねあてた、
〈南(スール)〉、アンダルシアの愛の残り香


ビクトル・エリセ監督による名作『エル・スール』の原作小説!


父の死を契機にセビーリャへと赴いた少女が出会ったものは……。内戦後の喪失と不在感を背景に、大人へと歩み始めた多感な少女の眼を通して浮かびあがる、家族の秘められた過去。映画『エル・スール』製作当時、エリセの伴侶として彼に霊感を与えたアデライダ・ガルシア=モラレスによる、時代を超えた成長小説。
http://inscriptinfo.blogspot.com/2009/01/blog-post_9074.html

 映画では描かれなかった、南部での出来事が小説では描かれるんですが、その以前に繊細な文章にノックアウトされました。ですます調、二人称といういっけんとっつきにくくはあるんですけど、読み始めると止まらない。シンプルに丁寧に紡がれた小説というのは好きだし、単純に憧れる。本当に素晴らしかった。
 映画の主人公エストレジャと小説の主人公アドリアナは似ているけれども、違うところもある造形になっていた。小説の方が攻撃的というか、より不安定な感じでした。映画ではこれくらいの方がいいが、小説ではこうした方がよかろう、というような判断があったのだろう。なんか映画と小説の違いが色々なところに現れていて、比べるのもおもしろかったです。
 終盤にある日記の描写が感傷的で好きでした。原稿用紙で100枚強くらいしかないんじゃないかと思うんですが(文字数を数えたわけではないのでわからないですけど)、非常に濃厚な小説。この短さがまたいいんだよ。読むことができて良かったと思えるような小説でした。