60年代まぼろしの官能女優たち

 ラピュタ阿佐ヶ谷で3月末くらいから始まっていた特集ですが、来週いっぱいで終了になります。何度か足を運びました。今週金曜日まで上映されているのは西原儀一監督の「引裂れた処女」。ゴールデンウィークでしたが、お客さんは半分くらいの入りでした。レイトは祝日関係ないか。
 『清純で健康的なホステスの雅美は結婚を申し込まれる。男の実家があるという温泉町へと連れられて行くが、待っていたのは女の生き血を吸う売春組織だった。』(フライヤーより)というストーリー。実際この通りのストーリーではあるんですが、香取環演じる雅美は温泉町へ着いてすぐに薬で眠らされ、麻薬を打たれてしまう悲惨さ。ここら辺の容赦のなさはいいですね。
 物語の流れとしては、香取環さんが逃げ出せるのか否かということが主だったものになるんですけど、薬漬けにされるっていうのが大きな障害としてあって、実際に逃げ出すチャンスを得ながらも禁断症状が出たために捕まってしまう場面もある。牢屋みたいなところで女郎上がりのおばさん(この人がいいキャラなんだ。)と暮らして、客を取りながらも逃げ出そうとする意思を見せるんですけど、その一方で禁断症状に負けてしまう場面が何度もある。脱走というものを単純に描こうとしない脚本は何気に巧妙だと思った。濡れ場への流れに必然性ができるものね。
 と言いながらも、単純なアクションも観たかったというのもありますけど(笑)。
 香取環さんのドラマではあるんですけど、彼女に「結婚しよう」と偽って温泉町まで連れてきた組織の若旦那の苦悩というのもこれでもかと描かれる。この人は「EUREKA」の役所さんみたいに始終咳き込んでいるんですけど、結核か何かだったのだろうか。それにしては喀血描写がなかったけど。うーん、どうなんだろう。それはともかく、この人が苦悩の末に香取環さんを逃がそうとする展開はあーこれしかないよなと思いながらも、納得でした。仕事が嫌になったというよりも、見限った感が強いのも良かったかも。あとやっぱり病気が人を弱気にさせるんだろうね。
 途中、盲目の女が売春組織に捕まってしまうんですが、この女を演じるのが白川和子さん。72分の上映時間の中で出番は多いとはいえないんですけど、じつに鮮烈でした。彼女は処女でセックスを嫌がるから「結婚しよう」と騙して連れてきた男が言葉巧みに説き伏せるんですが、買春をする生娘マニアのオヤジと途中で変わるわけですね。盲目なので変わったことに気づかないんですけど、オヤジの方も気づかれまいとして声を全然出さない。顔はニヤけているんですけど。そのせいで不気味さのある濡れ場になっていました。嫌なもの観ちゃった感じ。また、この場面の前で部屋の電気が落とされるので、モノクロの白と黒のコントラストがはっきりと出てて良かったです。その後の展開も含め、白川さんは印象的でした。
 白川さんを連れてきたもう一人の若旦那の顔には傷があって、組織のボスに「めくらならお前にも惚れるだろう」と言われるシーンなど、主要登場人物それぞれに抱えているものがあるように作られているんですが、さらっとしか触れられないところがいいですね。ホステス仲間のタミコとかも。シンプルなストーリーの裏で、特に組織の若頭二人の思いが複雑に動いている感じがしました。この脚本、やっぱりけっこういいかも。もっとも組織のチンピラたちは書き割りみたいな描かれ方でしたけど。