『雲の上』/『国道20号線』

 爆音映画祭2009の目玉上映っていうのは、ライブ/レクチャー枠を除けば、たぶん特別料金が設定されている青山真治監督の「こおろぎ」とゴダール「映画史」一挙上映だと思うんですけど、今日富田克也監督の2作を観て、裏の目玉はこの2作だったんじゃないかと思った。それくらい充実した上映でした。以下ネタバレありで2作について。
 「雲の上」は去年の今頃にアップリンクで上映されて以来、「国道20号線」は……アップリンクで最初に封切られて以来になるのかな、両方とも久しぶりに観ました。「国道20号線」はアップリンクで月1上映されていますが、「雲の上」はなかなか上映の機会がないんじゃないかと思うので、今回また観られる、しかも爆音、ということで楽しみにしていました。
 「国道20号線」の方は2日の朝に観ていて、今日が2度目。チラシで言及されているカラオケシーンが良かったのは言うまでもないんですが、最初の方にあるバイク整備のシーンのエンジン音やラストのLFBの曲なんかは「地獄の黙示録」よりも大きな音が出ていたように感じられ、というかエンジン音の音圧はマジで半端なかったんですが、いやーほんとに良かったねえ(笑)。
 この映画の感想については以前このブログにも書いたんですが、音が違うと印象も変わってきますね、やはり。スクリーンの大きさもあるだろうし。サラ金のATMやドンキ、ラブホのネオンや派手な照明をぱぱぱっと切り取っていくときは、昔の映画で都市の風景をさらっと見せるやり方に似ていると思えるんですが、毒々しさと体温のなさが極端に出ているように感じられる。2回ともそう思ったし、不穏さみたいものを強く感じた。前に観たときは、もっと淡々としているように感じたと思うんですけど。見る側の変化なのかな。
 今回の上映で際立ってよく見えたシーンが、主人公がメロンを持って町を歩く場面なんですが、歩いている主人公に合わせて曲が流れ始めて、それがだんだんと大きくなってくる。で、主人公が立ち止まったときにぱっと音が消えて無音になって、主人公の呼吸だけが聞こえる、という流れなんですけど、ここが良かったですねえ。「雲の上」もそうなんですけど、無音とのコントラストが素晴らしいんですよね。
 「雲の上」は8mmで撮られた映画なので当然のように画面が粗いんですが、だんだん気にならなくなっていくというか、むしろこれが普通なんだって思えてしまうくらいに吸引力のある作品だと思います。この作品はどれくらい上映の機会があるかわからないんですけど(東京近辺だと去年のアップリンク以来なんじゃないかと思う。)、もっと有名であってもおかしくないくらいの作品だと思っています。だいたい8mm、140分っていうだけでね、すごいなって思うんだけど(笑)。
 人を一人半殺しにして服役していた男が出所してくるところから映画は始まる。その男は寺の跡取りだが、地元の悪友との付き合いを続けている。友人の一人はヤクザになっているが、下っ端で馬鹿扱いをされているので足を洗おうと思っている。その友人が東京へシャブを受け取りに行くことになり、主人公はドライブがてら同行するのだが……。というのが大まかな筋立てなんですが、地方のチンピラのダウナーな日常が描かれるので、ストーリー性は薄いかも。
 後半は東京でシャブを持って逃げた主人公が、地元のクラブのママの娘との日々に多くの時間が割かれるんですが、中上健次的というか神話的というか、そういったものが不意に顔を覗かせるのもここ。ドラッグでラリってる人が描かれることで、映像的にどんどん飛躍していくように思えました。というか、観ている俺もラリっていたのかもしれない(笑)。序盤から中盤までからは、こういう展開になるとは想像できないと思う。動きがほとんどなくなり、意味不明な会話が続き、でもよくよく思い返してみると作中の人間関係がクリアになるのはここなわけで、すごい力技って感じもしますけど、おもしろいんだよねえ。マジックリアリズムってこういうこと!って思った。
 この映画では「国道20号線」みたいな音楽が入ることはほとんどなくて、自然の音とか生活音、そして過去や幻覚、そして土地に宿ったものを見せるときに響くノイズが鳴ることが多い。それを無音と合わせてくるから余計際立って良く聞こえるんですよね。「国道20号線」もそうだけど、音の使い方はかなりうまいと感じました。
 そして先日の日記でも書きましたが、終盤に流れる薬師丸ひろ子の「あなたを・もっと・知りたくて」。ヤクザが車のトランクに押し込めた男の声を消すためにラジオをつけるとこの曲が流れ始める、しばらく走っていると、主人公の乗るバイクと車がすれ違う。それをきっかけに視点がバイクに移り、エンジン音、走行音と薬師丸ひろ子が混然となって響き始めるという寸法なんですが、正直泣きそうになりました。予想外のタイミングで薬師丸ひろ子が流れ始めることもあるんですけど、走るバイクを追うカメラと音楽、ノイズの混ざりっぷりが何か決定的だったんですよね。ここはさほどバカでかい音ではなかったものの、圧倒されました。うまく説明できないのがもどかしい。
 「雲の上」はもう1回観たいですね。できれば爆音上映で。今回、1回しか上映がないのが残念だ。上映時間が長いので仕方ないですけど。また特集上映か何かで出会えるときを楽しみにしておこう。そのわくわくはソフト化されていない作品だけに持てる特権だと前向きに考えるようになりました、最近。