NOISE!

 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」の音響とか、あるいは椎名林檎の「三文ゴシップ」とか、音楽というものに対して最近なんだかもにょもにょしてしまうことが多かったんですけど、オリヴィエ・アサイヤス監督によるライブドキュメンタリー「NOISE」を観て、やっとすっきりした。
 バウスシアターで爆音上映中なんですけど、ぼくが行ったときはお客さんがほとんど入っていなくて、寂しいかぎりでした。10人くらいだったかな。興味ない人はともかくも、興味があって観に行ける環境にある人は行って後悔はしないと思う。全国順次公開なので、地方の人は期待して待て。という感じ。

出演ミュージシャン(出演順)

 感じたことを書き散らそう。
 ライブドキュメンタリーというと、マーティン・スコセッシの「シャイン・ア・ライト」が最近話題になりましたが、あの映画とは違って「NOISE」では音楽そのものを映そうとしているように感じました。と同時にその場にいなかった人が、ダイジェストではあるけれども、はっきりと追体験できるような作りになっているなと。
 この「NOISE」はフランスで行われているアート・ロック・フェスティバルの模様を収録したドキュメンタリーで、収められているのは2005年に開催されたときのもの。映画自体の完成も2005年で、4年前になりますね。やっと公開、ということになるのか。「夏時間の庭」といい「クリーン」といい、今年はオリヴィエ・アサイヤスの年だなあ。
 話を戻すと、スコセッシがローリング・ストーンズを撮ろうとしたのに対しこの「NOISE」では音楽そのものが撮られていると感じた、というのは映像そのものから思ったことでした。曲ごとに構図を設計して、それに伴ってカメラの位置や細かいカット割りを決めていったスコセッシとは違って、この映画ではカメラマンがステージ上(あるいは客席にも?)にいて、手持ちで撮影している。
 オリヴィエ・アサイヤスという人はカメラをかなり動かす人なんですが、決してめちゃくちゃに動かしているわけではなくて、間違いなく理論だってやっているんですけど、この映画でもカメラがある一点を見つめることはあっても、固定で撮っているわけではなくて、微妙な揺れと共に撮られている。
 ステージの全体を映すよりも、かなり寄ったショットが多いというのは、客が何を見ているかという意識がカメラに働いているからだろうと思った。例えばそれは弦をはじく指だったり、ボーカリストの喉だったりするんですけど、音がどう発せられるのかを収めようとしているのだろうし、これは人によると思うんですけど、実際にライブに足を運んだときって、奏法というものを見ようとするじゃないですか。その意識に寄り添っているようなカメラワークだと思った。例えばTEXT OF LIGHTのときなんか、この音はこう出しているんですっていうのをわかりやすく示していたんじゃないかなー、なんて。他にも、ジャンヌ・バリバールのときなんか、彼女の喉がよく映るんだよね(笑)。
 そんな感じで音楽そのものを映すことによって、音楽そのものになろうとした映画なんじゃないかなって感じたし、それはとても誠実なことだと感じた。「シャイン・ア・ライト」はアイコンとしてのストーンズがどうしても全面に出ちゃうので、むろんストーンズの音楽はいいんですけど、小賢しさが目立ったというか、うーん……(笑)。
 出演ミュージシャンはフランスのフェスだけあって、フランスと関連国が多め。というか半分以上がオリヴィエ・アサイヤスと関係のあるミュージシャンばかりなので、じゃっかんの身内臭を感じたりもしましたが、いずれも実力のある方々だったと思います。
 特に関心したというか、すげえ……となったのがジャンヌ・バリバールの歌。大変素晴らしかったです。色気のある官能的な歌声にうっとりしっぱなしでした。バンドの演奏もかっこよかった。みくしの日記にも書いたんですけど、ジャンヌに欲情したような演奏だった。
 ジャンヌ・バリバールオリヴィエ・アサイヤスの映画に出演している女優でもある、というか女優が本業だと思うんですけど、ミュージシャンとしても一流だと思った。艶のある重めの歌声からファルセットの浮遊感まで、はっきりいってすごく好みの音。素晴らしい。CD買わないと!
 SONIC YOUTHの分割ユニット2組もエクスペリメンタルな音楽をやっていて良かったし、METRICもねー、いいんだよねー。ギターロックいいんだよ。来日公演、行きたいな……。
 それから、やはりオリヴィエ作品に出演している女優でもあるマリー・モディアノ(作家パトリック・モディアノの次女)の歌声も、その前のジャンヌで脳みそやられちゃってたんであれなんですけど、なかなか良いものだと思った。というか、出演ミュージシャンは外れなしだと思う。アフリカの民族音楽みたいなのもかっこよかったし。ここまでバラエティに富んだものを1300円で観られるのはお得だ。
 最後に、一番感心したのは録音でした。これはその場で録音したものを使っているんですけど、臨場感溢れるという言葉は安直かな、まあ具体的にいうと客席の音をしっかり拾っていて、ブートレッグな雰囲気がぷんぷんする音質になっていました。拍手や歓声だけじゃなくて、お客さんのささやき声とかざわめきとか、まあ空気感みたいなものが聞こえてくるんだよね。爆音上映じゃなかったら、どこまで聞こえるか逆にちょいと気になったんですけど。オフィシャルの音源とは思えない感じがしました。
 バウスシアターでは今月末まで上映中。たぶんあと1度は行くと思います。とにかく素晴らしい音楽映画でした。女子ボーカル多めなのも好みなんですけど、ああそんなことはともかく、もっとお客さん入って!ってけっこう切実に思う。ガラガラなのは悲しいよ。