ポケットの中に戸浦六宏がいっぱい。

 といいながらも、順調に消化している大島渚特集について。ってほどでもないけど適当に。
 最近、大島渚ブームがぼくの中で起こっているんですが、それは実は戸浦六宏ブームでもあるのかなと思い始めてる。大島渚作品のおもしろさを再確認すると共に、俳優・戸浦六宏さんの魅力にズキュンとやられてます。大島作品ではなくても、例えば「女囚さそり 第41雑居房」とかね、ホントいいなって思えるんだけど。
 先週観た「日本の夜と霧」、「白昼の通り魔」、「無理心中 日本の夏」もそれぞれ全然違う役なのに見事に演じられていて、でも戸浦六宏としかいいようのない存在感なんだよなー。うまく説明できないんですけど。
 まずうわって思ったのは「日本の夜と霧」の冒頭で、ふてきな笑みを浮かべる戸浦六宏さんの蝶ネクタイ姿が忘れられないです。六宏あなた何をするつもりなの?と思っちゃうくらいの思わせぶりな笑顔で、この後何が起こるのかっていうのが何となく感じとれるというか、観客にある予感を抱かせると思います。それは結婚式が間違いなくうまくいかないだろうってことなんですけど(笑)。
 手元にソフトがないのであれなんですが、「儀式」の結婚式のシーンでも戸浦六宏さんは蝶ネクタイだった気がするんですが、どうだったっけ? ああ細部があやふや……。こういうのはよくないな。憶えとかないと。でもたしか蝶ネクタイだったはず。はずだ。なんとくなく蝶ネクタイ俳優のイメージがつきつつあります。どんな俳優だ。
 「白昼の通り魔」は一転して悲痛な役です。川口小枝、小山明子佐藤慶戸浦六宏が激しく対峙するような映画なんですが、この四人の中でもっとも痛ましい役回りだったと思います。そういうときにすごくいい表情をするのが戸浦六宏さんで、遠くを見る目とか、川口小枝や小山明子へ向けるまなざしがときおり叙情を帯びていてすごく良かった。良い顔するんだよなあ(笑)。
 武田泰淳の原作を読み直してから見たんですが、読んでいるときは戸浦六宏さんっぽさがあまり感じなかったんですけど、映画を見ちゃうと戸浦六宏以外考えられないなとさえ思えてしまう役者力。もっとも、大島渚組の俳優だったら、他の人でもわりと平然とやれちゃいそうな気がしないでもないですけど。
 「無理心中 日本の夏」は最初の方は出てこないんですが、それが逆にテレビ抱えて出てきたときの六宏キター!という高揚につながるのかもしれないです。あとこの映画の戸浦六宏さんはファシストという役回りがあるんですけど、途中からは何しでかすかわからない雰囲気があって、というか行動を共にしているけど目的は違うんじゃないかっていう雰囲気か、不穏でした。そして予想通り裏切って、警察に投降しようとする途中で撃ち殺される。そこが、バッチリカメラ目線で死ぬものだから、ぐっときちゃいました。岸田森かあんたはとも感じましたけど。
 そういえば「白昼の通り魔」と「無理心中 日本の夏」は佐藤慶が非常に重要な役、というかほぼ主演(といってもいいよね?)で出てる映画つながりで、俳優・佐藤慶の魅力がガンガンに伝わってくる2本立てでした。特に「白昼の通り魔」ですよね。この佐藤慶はぐうの音も出ないくらい素晴らしいです。「魔」というものを体現してる。邪な存在でありながら、どこかに人を引き付けるというか、魅入らせるような要素があるのが「魔」だと思うんですけど、この映画の佐藤慶さんはホントそんな感じでした。素敵だったー。