たまには感想でも。

 なんだかんだいろいろ読んでます。しかしなんか最近は、書こうとしている小説のための資料を読むことを優先して、純粋に読書を楽しんだということがあまりない気がします。どうなんだろう、そういうの。
 でもこの本は実におもしろかったのだった。

自叙伝・日本脱出記 (岩波文庫)

自叙伝・日本脱出記 (岩波文庫)

 大杉栄の自伝なんですけど、大正に書かれた文章とは思えないくらいの瑞々しさがあって、いちいち活き活きしてて良かったです。変にひねるようなことはなくて、基本的には端的に起こったことを思い出しながら、だから事実誤認もあるようなのだけれどそんなことはわりとどうでもよくて、ああぼくはこういう文章が好きなんだなあと思った。

 実際僕は父に似ているのか、母に似ているのか、よく知らない。もっとも顔はたしかに母によく似ていたらしい。
「そんなによく似ているんですかね。でも私、こんないやな鼻じゃないわ。」
 母はよく僕の鼻をつねっては、人にこういっていた。
 母はきれいだった。鼻も、僕のように曲った低いのではなく、まっすぐに筋の通った、高い、いい鼻だった。
――大杉栄『自叙伝』

 上に抜き出したのは11ページ(実質3ページめ)にある文章なんですが、うーん、いいよね(笑)。こういうまっすぐな文章で半生が綴られるんですが、文章だけでなく実際のエピソードもおもしろくて、ぐいぐい読まされてしまった。あんまりおもしろかったんで、あわせて収録されている「日本脱出記」はまだ読んでないくらい(笑)。
 吉田喜重監督の「エロス+虐殺」を観る前に予習として、名前と虐殺のことくらいしか知らなかったものだから、大杉栄伊藤野枝に関する知識を少しばかり仕入れておこうかと思ったのが読んだきっかけなんですけど、読んでよかったなあと思った。