何も言わずにジョニー・トー
先週の土曜日、待ちに待った「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」の初日でした。ジョニー・トー監督作品。好きな監督ではあるんですけど、よくよく考えてみると、トー監督の多くの作品の中でぼくが触れているのはほんのわずかなんだなあとふと思った。でもジョニー・トー作品が好きなことに変わりはない。
なので、先週はDVDで「エレクション」2部作と「スリ」、「エグザイル/絆」を観直してテンションを上げて、いよいよ初日の1回目に駆けつけたんですけど、朝の10時からだというのにほとんど満席でちょっと感激でした。みんなジョニー・トーを待ってたんだね。
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「エグザイル/絆」よりもこの「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」の方が好きなのは、ジョニー・アリディがいるかどうかかもしれないです。ジョニー・アリディ演じるコステロはかつての殺し屋で、仕事のときに受けた銃弾が頭の中に残っていて、記憶が無くなりつつあるという設定がある。名前からして、ジャン=ピエール・メルヴィルの「サムライ」でアラン・ドロンが演じた殺し屋ジェフ・コステロへのオマージュであることは想像しやすいし、実際当初はアラン・ドロン主演での企画でスタートしたらしいんですが、それはともかく、この設定が実に胸に迫るもので、グッときちゃうんだなー。
予告編でも使われていたと思うんですが、復讐の記憶をなくしちゃうというのが悲しくてねえ。例えば哀川翔×黒沢清の復讐ものだと、哀川翔が復讐を忘れるなんてことはありえなくて、ゆえに「蜘蛛の瞳」で復讐が無効になる瞬間にゾッとしちゃうんだと思うんですけど、ジョニー・アリディの疲れきったような風貌がほとんど異世界であるマカオ/香港に現れると、その出で立ちは哀川翔のゆるぎなさとは正反対で、この復讐は無事成就するのか不安になってしまう。
実際は成就どころか、復讐心すら失われるわけですが、だからこそ中盤から後半くらいにかけてにある、たしかラム・カートンとアンソニー・ウォンの会話だったと思うんですけど、「忘れてしまった復讐に意味はあるのか?」、「だが俺たちは約束をしたんだ」みたいなやり取りが効いてくる。娘一家襲撃への恨みだけでなく、アンソニー・ウォンたちが誰なのか、自分が誰で何をしているのかすら忘れてしまっているような、もはや復讐が成立してない上にパリにあるレストランと屋敷を報酬にするという契約すら無効になってしまいそうな状況の中で、『約束をした』ということだけを信頼して、死に向かっていくアンソニー・ウォンたちはカッコよすぎで、痺れます。
そうそう、殺し屋たちとジョニー・アリディが出会う場面、二度目の出会いから依頼につながる場面はどっちも最高だったな。運命の歯車が決定的に動き出す予兆があって、その後確信になる。
アンソニー・ウォンたちの死を知ったジョニー・アリディもまた、サイモン・ヤムとの戦いに赴くんですが、記憶をなくしたジョニー・アリディはアンソニー・ウォンの妻(でいいのか?)と子供たちにかくまわれていて、3人の死を伝えるニュース番組で映された彼らの顔写真を見て、「おじさんはこの人たちを知っているんだね」と子供たちに聞き、子供が「親友だよ」と答える。このやり取りが泣けます。記憶が戻ることはないけども、何かを感じ取っているという、明快さと曖昧さの間で祈るジョニー・アリディはじゃっかんやりすぎかとも感じたけども、これはこれでトー節なんだろうなあと思います。
サイモン・ヤムを追い詰めるジョニー・アリディの作戦は見てのお楽しみなんですけど、記憶できないというハンデをユーモア溢れるやり方で補っていて、けっこう好きでした。冒頭にある殺し屋3人の仕事の場面もそうなんですが、こういう流れるようなシーンの作り方っていいなあって思う。「スリ」のスリシーンもそうだし、あと監督ではなく製作だけですけど「意外」の殺しのシーンもそんな感じかな。台詞が極端に少なくて、というかほとんどゼロだと思うんですけど、とにかく人の動作を流れるように見せるやり方ってかっこいいし、とても映像的で好きです。
殺し屋たちとジョニー・アリディを迎えるサイモン・ヤムもいい悪役っぷりで、ぼくはサイモン・ヤムの笑みの浮かべ方がけっこう好きなんですけど、それはともかく、悪役といっても100%ワルって感じでもなく、なんとなくアンソニー・ウォンとの友情を感じさせるやり取りがあったのがステキでした。最後までふてぶてしさを失わないところもいいですね。
それにしてもなんてロマンティックな映画なんでしょう。あー、こんなぐだぐだ書いてたら、また観たくなってきた。人を選びそうだけど、今上映されている新作の中ではピカイチだと思います。ま、男は黙ってジョニー・トー。これに尽きる。