フェイクドキュメンタリーの妙技

 白石晃士監督の新作「シロメ」を先日観てきました。1週間くらい、しかも都内ではお台場、板橋、武蔵野の3館での上映となっていて、武蔵野は調べてないですけど、お台場・板橋は1日1回上映。もうちょっとどうにかならなかったものかと思ってしまうんですが、どうにか予定を合わせて観ることができました。ガラガラというか、お台場のシネマメディアージュのたぶん一番大きいスクリーンでの上映だったと思うんですけど、客は5人しかいなかった。平日昼間とはいえ、しょんぼり。
 DVDは来月リリース予定。

シロメ [DVD]

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 「シロメ」は白石監督の代表作「ノロイ」や「オカルト」と同じく、フェイクドキュメンタリーの作品になっています。
 ももいろクローバーというアイドルユニットがあって、彼女たちには映画の撮影とは知らせずに「シロメさま」という都市伝説のある廃墟に向かい、怖がる彼女たちを……というコンセプトで作ったようなことを公式サイトかどこかで読んだんですけど、この映画自体はももいろクローバー主演で作ったけど、お蔵入りになってしまったある心霊バラエティという設定になっていて、ただの心霊ドッキリでは終わらせない構成になっていました。
 撮影自体は心霊バラエティを模したような形で行ったんじゃないかと想像できるんですが、だからこそおもしろかったです。ここら辺はフェイクドキュメンタリーを作ってきた白石監督のたしかな手腕を感じました。というのも、実際にはももいろクローバーに映画の撮影であることは伝えなかったという話なんですけど、あくまでバラエティ番組の収録であるというエクスキューズがあるので、彼女たちの怖がるそぶりに演出をくわえてもけっして不自然にはならないからです。
 この映画の中のももいろクローバーの怖がり方というのは、ぼくにとっては見苦しいもので、騒ぎ方だったり口にされる言葉だったりが、素っぽくないというか、テレビ的なんじゃないのって思えてしまったのでした。でも心霊バラエティなんだから、そうするのは当たり前じゃないかとも思えるし、もちろん演出が施されるところは画面に映らないし、実際は彼女たちの素なのかもしれないんだけども、そういったところからリアルと演出の境目がよくわからなくなっていくのかなと思った。
 この映画は一応ホラーという宣伝のされ方をされてはいるんですけど、むしろ心霊バラエティのパロディ的に見えてしまって、怖さというのはほとんどなかったです。心霊ドッキリをひっくり返すためのもう一声があるにはあるし、やはり「ノロイ」とか「オカルト」ほどじゃないけども、不気味だなあと思えるところもあったとはいえ。
 むしろおもしろいのは途中から出てくる男女の霊能者にあって、霊能者をヒロイックに扱わないというのは小中理論のひとつなんですけど、それすらもいい意味でパロディ化したような演出があって、とにかくこの2人は良かったねえ。廃墟探索の前にももいろクローバーと合流するんですけど、煽るはキレるは、特に何をするわけでもなく、現場に不穏な雰囲気を醸し出させ、空気を悪くする(笑)。
 序盤にシロメさま伝説を語る怪談師という男が出てきて、ももいろクローバーにシロメさまの話を語って聞かせた後、体調を悪くしてゲロを吐くシーンがあるんですが、園彼がサプライズ的に廃墟にもやってくるんですね。すると女の霊能者の方が「何なんですか、この人、聞いてないですよ。どういうことですか」などと強い口調でキレ始める。男の霊能者は「この人は憑依体質ですよ」とか言い始めて、案の定男の様子がおかしくなるっていう流れは淀みがなくて最高だったな。
 他にも廃墟の中で、「われわれはこれ以上もう先に行けません」と離脱するし、「ここから鈴を鳴らしてパワーを送るから、この音が届いている内は大丈夫」などと言うんですけど、その後当然のように鈴の音は聞こえなくなる(笑)。ギャグすれすれだと思うんですけど、廃墟の美術がいいので、観ている間はちょっとハラハラしたりもした。
 それにしてもふと思ったのは、ももいろクローバーのメンバーにはホントの企画内容を教えていなかったという話なんですけど、霊感のあるという設定の1人にはある程度情報を与えていたんじゃないかなあと感じた。根拠はないし、実際がどうだかもわからんですけど。怖がり方とか、役回りっていうのが他のメンバーとちょっと違うような気がした。いや、ホント実際どうだったかはわからないですがね。
オカルト [DVD]

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