小劇場

 下北沢の駅前劇場でスロウライダーの「Maggie」を観た。これが実におもしろくて、今年のおれ的小劇場演劇のハイライトになるくらいの芝居だった。素晴らしかった。
 ブローティガンの「西瓜糖の日々」にインスパイアされた芝居とのことだったが、結局どういうことかというと、一軒家を舞台にした現実の世界と、その現実の世界の主人公が読む「西瓜糖の日々」という小説の世界が、舞台上に現出するということだ。どう説明すればいいのかわからないけれど、極めて演劇的な手つきであると思った。
 「西瓜糖の日々」の"わたし"と現実の世界の主人公を演じる役者が入れ替わってみたり、「西瓜糖の日々」の"わたし"が現実の世界の主人公の本心を発してみたり、現実の世界の主人公が「西瓜糖の日々」の"わたし"の役回りを別の人物に奪われ、「西瓜糖の日々」で死ぬ運命にある人物に入れ替わったりと、実際に観なければわからないだろうし、このイメージのおもしろさが全然伝わらないだろうことが残念でしょうがないのだけれど、素晴らしい舞台だった。酩酊感たっぷりだった。
 そしてラスト、「西瓜糖の日々」の"わたし"がマーガレットからスカーフを奪う場面、ここのカタルシスといったらない。「モーターサイクル・ドン・キホーテ」に似ているかなとも思ったけれど、この「Maggie」の方がよりシュールだったかな。劇世界の混ざり合いというのはこっちの方がどろどろとしていて、グロテスクな色彩を持っていた。「モーターサイクル・ドン・キホーテ」には広がりがあったけれど、「Maggie」には閉塞感があった。その違いだろうか。
 本当にいい芝居だった。スロウライダーという劇団を今まで観てこなかったことを後悔したくらいだ。行こうとは何度も思っていたのだけれど、時間があわなかったり金がなかったりと機会を逸していたのだった。次回公演は再演らしいので、それはそれで楽しみだし、作・演出でこの「Maggie」にも役者として冒頭だけ出演されている山中さんは何だかちょっぴりチェルフィッチュっぽくて、年末の新国立劇場にも出演されるということで、そっちも楽しみだ。
 それと、「西瓜糖の日々」を読んでみたくなった。ビートジェネレーションらしいので、とりあえず買うかと思ったのだが、アマゾンのレビューには春樹、龍という文字が。春樹っぽかったらやだなあ。とりあえず売っている本屋を探しに行くところから始めよう。