ひぐらしのなく頃に

 ようやく観たのだった。以下、豪快なネタバレ。
 「富江」や「日本製少年」の及川監督ということで、期待はしていました。でも近作の「富江 Revenge」を観たあたりから期待は不安に変わっていたのだった。あれはひどかった……。
 それはともかくも、結論としては凡作でした。何が一番ダメかって、ちっとも怖くないということだ。ホラーを名乗る以上、観る者を怖がらせないといけない。しかし、少なくともぼくは少しも怖くなかった。原因のひとつはかなりわかりやすく撮っているからだと思う。逆に言えば丁寧なのかもしれないのだけれど。
 例えば「嘘だっ!」の後、教室から見下ろす魅音がアップになるシーンがあったと思うけれど、あそこはアップにしない方がいいと思うのだ。あくまで圭一とレナを映しているけれど、実は魅音が見張ってる、みたいな意味を持たせるシーンだからこそ、見る側が気づくか気づかないかのところを攻めてほしかった。他にも、別にワンカットでいいじゃないかという場面がいくつかあった。レナと魅音の死体がごろんとしているところももっと引いた絵で見せればいいのにと思った。
 原作はだらだらとした日常がいきなり変化するところに驚きがあったわけですが、この映画はそこもちょっと中途半端でした。最初っから不気味な雰囲気を出しながらも、のどかさもあり、やがて気味の悪さというのがはっきりとし始める。原作ありきで考えると、やはり最初はとにかく楽しげで明るい田舎を作るべきだった。しかしながら、これは映画で、上映時間というものがある。後半との落差を出すためにはもっと徹底した描写が必要だろうし、それをやるためには時間が必要になりますね。以前、「ファウスト」のインタビューで「ディア・ハンター」と似ているみたいなことが言及されていましたが、「ディア・ハンター」は3時間以上の長尺の映画だからできたわけであって、106分でできるかといったらなかなか難しい。加えてもう一つ、俳優の力という問題がある。「ディア・ハンター」はロバート・デ・ニーロクリストファー・ウォーケンジョン・カザールといった俳優が出演しているが、この映画の主役級の俳優たちはまだ若く、あまりうまくない俳優ばかり。平凡でゆったりとした時間を退屈させずに見せるのには難しいだろう。だから一本の映画として上を目指すならば、最初っから村の不気味さを出していった方が良かったのではないかと思う。ハマーフィルムっぽくなりそうだけど。
 そうそう、俳優だ。正直きつい(笑)。特に後半はもう駄目だと思った。魅音役の飛鳥凛という子は「口裂け女2」を観たときも感じたことけれど、台詞だけでもういっぱいいっぱいになっている気がする。それは他の子もそうなんだけど。圭一役の子は演技云々の以前にミスキャストだと思う。「シャイニング」のジャック・ニコルソンのようだ。そういえば、沙都子役の子はどっかで観たことあるなーと思ってたら、「伝染歌」に出てたのね。なるほど。
 逆に大人の方は良かったと思うんですね。ただ、川原亜矢子さんはミスキャストだと思う。むしろ被害にあう側だろう。ニンじゃないよ。奮闘していたとは思いますが、そもそもそんなに技巧のある人でもないので厳しい。逆にこの人は「マナに抱かれて」みたいに役柄にあったときはとても魅力的な人なので、惜しいなというところです。三輪ひとみさんと逆にすれば良かったんじゃないかな。三輪さんの出番があれだけっていうのはちょっとなあ。手堅く脇役を勤められる人だから。杉本哲太氏は盤石。原作の大石っぽくはないが、哲太が出てくると芝居がしまるね。うまいわ。富竹は何かワイルド過ぎてちょっと噴いた(笑)。
 ひぐらし的には大事なのかもしれないが、映画的には失敗だと思うのは転調の構成ともう一つ、島みやえい子のOP曲ね。あれはけっこうホラーを台無しにしていると思う。黒沢清監督も書いている通り、優れたホラーはまだ何も起こっていないのに美術と音響だけですでに怖いのだけれど、あのOP曲は怖さを全く産まないよ。ひぐらし的には島みやえい子の歌が大事なのはわかるんだけど。あー、でも、SEというか、映画の音響自体は良かったと思う。って、これ録音は「LOFT」の人なのか。
 一方、美術が微妙だった気がします。分校の建物の屋根の一部が真っ赤になっているのは禍々しくていい感じでしたけど、他は普通すぎるんだよなあ。あと、圭一がおかしくなったときにスモークを炊くのはいいんだけど、レナの指がドアに挟まるあたりは特殊効果を超えて、もう火事になっているんじゃないかと思ってしまうくらいで、あれはどうかと思った。煙ですぎだろ、あれ(笑)。
 何がともあれ、封鎖的な村の不気味さがほとんどなかったというのが敗因だと思います。カール・ドライヤーの「吸血鬼」みたいに全編から得体の知れない怪奇の匂いを充満させるくらいだったら、一本の映画としていいものに仕上がったと思うんですけど。中途半端だったなあ。つくづくホラーは理論だと思った。もっとも、人間の狂気はホラーの題材にするには難しいわけですけどね。もっと自覚的にならないといけない。


 どうでもいいけど、圭一初登校の場面のスローモーションはガス・ヴァン・サントのばったもんみたいで、ほんと自重しろwwwって感じだった。
 あと、梨花ちゃまかわい……いや、ねーよwww 確かに綺麗な顔立ちではあるけれど。オフェリアのときはさすがにかわいいと言わざるをえなかったけど、ここは異論を唱えたい。えりくらさんはエリート過ぎだろう。