8mm映画復讐編

 バウスシアターで「殺しのはらわた」上映期間中のオールナイトイベントとして催された8mm映画地獄篇は色んなことを考慮して行かなかったわけですが、その代わりに篠崎監督の「ハメルンの笛吹き」はどうにか観てきたのだった。いや、小説の締め切りが近いので、あんまり無理したくなかったんです。でもなんか悔しかったので(笑)、「ハメルンの笛吹き」は観てきました。
 これがかなりおもしろかった。全体のストーリーとしては、大学生三人組のダウナーでモラトリアムな日常が描かれるんですけど、その外側では自殺が流行っていることが観測されていて、彼らの日常にもそれが忍び寄ってくる、という感じです。
 いいな、と思ったのは自殺という現象がほとんど映像の外で描かれること。落下する人影や、唯一劇中で存在する自殺のシーンがあるにはあるんですが、原因不明の自殺が頻発しているという現象は基本的には新聞や登場人物の会話で描かれる。これがすごい効果的で、冒頭に人間の落下シーンがあることもさらに効果的なんですけど、終始、何かが起こるかもしれないという緊張感が画面のどこかにあるんですよね。フレームの隅っこで自殺があるんじゃないかっていう(笑)。
 トイレの鏡を割って自殺をしたという話を登場人物がした後で、トイレに行くシーンを用意する。こういうところからも何かが起こるかもしれない感が増していたように思えます。三人組の一人が、たった一人で忘れ物を取りン行く場面なども、いちいち窓を映したりして、おいおい飛び降りるのか!?って思ってしまうような感じだった。
 映像というか、カメラワークも凝っていました。校内で追いかけっこをする場面の長回しとか、まあ基本的にワンカットが長いんですけど、すごい良かった。引いたり寄ったりする動きがいいんだよなあ。いいわーこれ、とか思いながら観てた(笑)。
 でもやっぱり描写の手つきがいいんですよね。主人公三人組の内、二人が自殺するわけですが、その場面は直接的に描かれない。一人は自殺したという事実が描写され、もう一人は自殺したのだろうという匂いを残すことになる。開かれたままの窓、窓からの風に揺れるポスター、ああこれだけで充分だと思わせるカットがなんか感動的でした。観て良かった。
 あと、アパートの廊下のところとか、怪奇映画っぽい雰囲気を醸し出していてとても好みでした。「トウキョウソナタ」でも感じたことですけど、廊下っていうのは怪奇な雰囲気を生むキーワードなのかもしれない。あと壁の色や人の影、などなど。
 それにしても、今まで確かに存在していた人がいなくなるっていう描写はなんて素晴らしいだろう。黒沢清監督の「回路」がその頂点にあるんじゃないかと思うんですけど、この映画の三人組がだんだんと欠けていく、その様子は大変印象深いものでした。この映画を観たことはなんだかぼくにとってプラスになるような気がしてならない、そんな冬の夜でした。