TIFF2009『スペル』

 ライミ・イズ・バック!と評判のサム・ライミ新作だったんですが、これすげーおもしろかったですよ。おすぎが褒めてることが不安で仕方なかったんだけども、ホントおもしろかったー。今週末から公開か。興業的にはズッコけそうな気がしないでもない(笑)。
 何がいいかって、「死霊のはらわた」とか「XYZマーダーズ」(ここ、ついマーターズって書きそうになってしまった……。)の頃の雰囲気があるってことで、ジャンルとしてはホラーなんだけども、過剰すぎて笑えるっていうライミ節がたまらんかったです。原点回帰といいますか、「スパイダーマン」でヒットメーカーになっても、こういう映画を作ろうとする姿勢がうれしい。どうやらぼくはライミ兄弟が脚本を書いた映画が好きなようです。
 ストーリーは、老婆のローン延長を断った銀行員(アリソン・ローマン)が老婆に呪いをかけられるというものすごく単純なものなんですが、終始ガンガン押してくるからホント楽しい。
 俳優陣も良くて、主演のアリソン・ローマンが大奮闘で感動した。ゲロを浴びたりスカーフに襲われたりしながらも、めげずに戦おうとする姿には涙が出そうになりました。ハンカチに襲われるところはブルース・キャンベルのリアクション芸を思い出したなあ。ていうか、「キャプテン・スーパーマーケット」で呪術書?がバサバサっと空を飛ぶところ(があったと思うんだけど)、スカーフの動きがそれにすごく似てて、あそこはほんとおかしかったなあ。思えば「キャプテン・スーパーマーケット」は封切りのときに映画館で観たんだよなあ。ニュー東宝シネマ。懐かしい。
 アリソン・ローマンの恋人役のジャスティン・ロングもかなり良いと思うんですよ。いかにもライミの映画に出てきそうなツラがまずいいんですが、意外というかなんというかものすごく誠実な役柄で、アリソンの呪いについては半信半疑っぽいんだけど、彼女を信じるっていう素直さがこの映画の娯楽度を上げていたと思います。アリソンのサポートにまわる役で、金持ちなんだけどイヤミではない。こういうところでひねりを入れなくても、約100分押し切れるたくましさ。アリソンの上司とか同僚もわかりやすく配置されていて、シンプル、というかベタな設定が効果的だと思う。他にも老婆とか霊媒師とか、出演者はピタッとハマった感じでしたねえ。
 ストーリーの展開もオチもわりと読み易くて、わかりやすさが描写の過剰さをある程度中和しているのかなと思った。過剰すぎて笑えるんだけど、しっかり万人受けするようにできていると思います。汚いけどね。ゲロとか入れ歯とか。いろんなもの吐くし。鼻血がブーっと出るところなんて、まさかハリウッド映画で目にするとは思わなかった(笑)。でも好き。冒頭で、ババアが銀行の受付の飴を全部持ってこうとするところがかなりツボでした。細かいギャグがいいんだよね(笑)。ライミとは笑いの波長が合うのかもしれない。「キャプテン・スーパーマーケット」の「クラトゥ・ベラタ・ゲフンゲフン」とかすごい好きだったし。
 ああいうギャグってチャウ・シンチーと共通している気がしないでもないです。たとえば「ミラクル7号」のハナクソが指からとれないっていうギャグとか。なんとなく似たものを感じました。だからどうしたって話ですけど。
 笑いのことばっかり書いてますけど、降霊会の場面はぞっとするようなカットがあって、さすがだなと見直したりもした。それはVFXの幽霊がばーっと出てきて、そういうの怖くないよとか思わせておいて、ちょっと引きの画面になると生身の俳優が演じる幽霊が部屋にぞろぞろと出てきてるっていう流れだったんですけど。あの場面好きだったな。全員、話の筋とは無関係の幽霊だったっていうオチもつくんですけど。細かなジャブを打ちながらもしっかりまとめてくるのは、やはり技術があるってことなんだろう。
 この映画、ヒットして欲しいなあ。おもしろかったもの。TOHOシネマズでやるわけだから、ある程度の動員は想定しているんだろうけど、どうだろう。けっこうばっちいし(笑)。
 ところで"My Name Is Bruce"の日本公開ってないのかな。あれもかなりおもしろそうなんだけど。