あなたたちが怖いものって、なに?

 10月31日から11月6日までシアターNで開催されていたホラーフェスジャパンのプレイベント。全6作品の上映の他、トークショーやイベントもありましたが、当然にように全部に足へ運ぶことはできず、トークショーに1度行けた他は映画の上映だけでした。でもメインはあくまで映画の上映だと思うので、全部観られたのは良かったことだと思いたいです。Tシャツももらえたしね!
 以下、今回の上映作品の雑感をネタバレありで。
 はっきり書いてしまうと、上映された6作品は以下の6本なんですが、「解体病棟」がかろうじてセーフなくらいで、ほかのはどれもつらかったです。

  • 血の魔術師
  • VLOG〜殺人サイト〜
  • 解体病棟
  • 地底の呻き
  • 死霊の遺言
  • マーダーゲーム〜殺意の連鎖〜

 驚くようなことじゃないのかもしれないんですけど、6作中5作が現実と妄想、現実と幻覚が交錯するような作りになっていて、なんだかなーと思いました。まあそういった構成にすれば、シナリオ上や描写上で都合良くできるのかもしれないし、低予算の中で少しは楽できるのかもしれないです。
 でも黒沢清監督の言う通り、信じがたいことだがそれは起こった、っていう感覚が恐怖を生むことは確かだと思うんですよ。正直言って、「解体病棟」を除く5作品における現実と虚構の混ざりに怖さはなかったです。それどころか、いたずらに観る側を混乱させているだけなのではないかと思ったくらいでした。
 「解体病棟」が他の作品に比べて良かったのは、登場人物が対峙しているものが紛れもなく現実で、それをどうにかしなければならないという状況が生まれているからでした。主人公グループはヤバそうな病院から脱出しなければならないし、ロバート・パトリック演じる医者は病身の妻のために新鮮な臓器が必要という状況がある。その中で攻防が生まれるわけですが、頭の悪そうな若者たちが田舎でなんかヤバそうな人たちに遭遇するというティーンホラーのフォーマットの中で勝負した映画で、その枠組みを超えることはないんだけども、しっかり観られる映画に仕立て上げているところは評価したいです。ロバート・パトリックジャネット・ゴールドスタインの確かな存在感によるものなのかもしれないですけどね。あと主人公が絶体絶命で緊張感がマックスに高まっているところを、とぼけたようなギャグで回避する演出が二回あったんですけど、その間がかなり絶妙で好きでした。ここらへんはサム・ライム以降のホラーコメディの血を受け継いでいるのかも。攻めるところと引くところのバランスは本当に良かった。
 薬物や毒ガスによる現実と妄想の混濁=「血の魔術師」、「地底の呻き」、そして「死霊の遺言」、悪魔つきのゲームによる錯乱=「マーダーゲーム」、ライブカメラを使ったブロガーのバーチャルとリアル=「VLOG」とバリエーションはあるのだけれども、軒並みおもしろくなかったです。もっとも一番腹立たしいというか、受け入れ難いのはそういった構成のことではなくて、映像自体です。これはトラッシュアップの最新号で苦言を呈するような記事があって、ですよねー!と思ってしまったんですけど、ショックシーンでカットを細切れにするといいますか、極端に多いカットをゴチャゴチャとつなぐという最近のホラーでありがちだとは思うんですけど、まさにそれが行われていたんですね。トラッシュアップの記事で溜飲が下がったんですが、ぼくはほんとにああいう映像が嫌いでねー(笑)、何が起こっているかよくわからないじゃないですか。それってお洒落でもなんでもないと思うんですよ。ディレクターはMTV的なオサレさを出そうとしているのかもしれないんですけど。
 アクションっていうのはああいう風に混濁させるよりも、はっきりと端的にとらえたほうがすごいと思うんですよ。それができないからごまかしているのかもしれないんですけど。襲う人と襲われる人がいて、そこにアクションとリアクションが発生して、それが積み重なっていく。それが運動につながると思うんですけど、ああいうガチャガチャした作りだとその運動が細切れになってしまって、驚きみたいなものも生まれないし、おもしろさもないです。とぼくは思っています。逆に「エクソシスト3」の廊下のシーンの長回しには感動しました。あの何かが起こるぞ!っていう緊張感はなかなか味わえるものじゃないと思います。出てくる俳優による横の運動と前後の運動がとにかく絶妙なんだよね、あれ。
 話がだいぶそれましたが、もうひとつ納得できないというか、わからないことがあって、それは「解体病棟」を除いた5作品の作り手が何を怖がっているのか、ということでした。ホラー映画っていうのは怖いもので、作り手は自分が怖いものを、直接出すか遠まわしに行くかの違いはあるだろうけども、それなりに出していくものなんじゃないかと思います。Jホラーの担い手たちは心霊現象がどうとかそういうことよりも、構図の怖さとか幽霊の動きの怖さとかを追求している部分があると思うんですけど、それは彼らが「こうすればもっと怖くなるだろう」とか「これがこうなったら怖い」とか、とにかく怖いということを考えながら脚本を作ったり映像にしていったりしていると思うんです。
 それはよくわかることで、インタビューを読んでいても幽霊に生きた人間じゃない動きをつけるために現代舞踊のダンサーを起用するとか、幽霊の立ち位置とか衣装とか顔を映さないとか、色々なことを試してきていて、その努力に感動を覚えるわけです。あるいは理論ですよね。たとえば「回路」の死んだ後には永遠の孤独が待っているというのは究極的な恐怖だと思うんですけど。
 でもこのホラーフェスで上映された、「解体病棟」はとりあえず除くとして、5作品の作り手が何を怖がっているのかがわからない。そして何を怖がればいいのかわからない。血が噴き出せば怖いかといえばそうじゃないし、例えば背後に誰かが立っていた!みたいなカットで大きな音を出して驚かすというのはビックリはするけれども、別に怖さとは違うものじゃないですか。
 もっとも、おかしくなっていく、というのが怖いのかもしれません。まあ、作品の方向性を考えると自分が自分でなくなる怖さ、が各作家たちのなかにあるのかななんて思いもしましたが、それは不安であって恐怖ではないんじゃないかと思います。少なくとも、脚本の段階で詰めきれていないように感じました。明確なものを持たないままに作られてしまったように感じられた。
 特に「マーダーゲーム」の行き当たりばったり感はひどいもんだと思いました。いろいろと腑に落ちなかったなあ。単純におもしろくないんですが、どういう原理で呪いが作動するのかがあいまいだったように思えた。有耶無耶のうちに殺し合いになってしまっていたようだったし。説明はいらないけど、行間のなさはどうかと思う。そうそう「マーダーゲーム」には「グラインドハウス」に出演してた双子ちゃんが出演しているんですけど、それも姉妹丼的なエピソードを入れたかっただけで、無理やりな感じが否めなかった。
 「解体病棟」には明確にトビー・フーパーダリオ・アルジェントの烙印があったんですけど、他のはどういう流れでこういう作品が作られたのかというのがわからなかったな。まあ、「血の魔術師」はハーシェル・ゴードン・ルイスのリメイクなんですが、パワー負けしてるよね。虚構性が物語に負けてしまっていて、せっかくのブラッド・ドゥーリフの出演も活きていなかったです。
 出演俳優を考えると「VLOG」が一番ヤバかったです。主演が有名なセクシーブロガーらしいんですが、まあ素人を主演に置いたときには監督の演出力やビジョンが試されるわけで、ボロボロでした。誰もが大島渚みたいな力を持ってるわけじゃないんだよ。しょうもないギャグに逃げているところもあって、一応ジャンル的にはジャッロに分類されるんじゃないかと思うんだけど、ジャッロもここまで堕ちたか……とがっくりきました。手袋するのはいいけど、業務用のゴム手袋なんだもんな。いやいやそこは革手袋だろって思った。色気がない。
 「死霊の遺言」と「地底の呻き」は両方とも主人公が薬物のせいでおかしくなっていく映画で、森の中か砂漠か、くらいの違いしかないようなものなんですが、予算のせいだと思うんですけど、「地底の呻き」の方が良かったかな。記録された映像を小道具としてシナリオに組み込むスタンスも悪くはないと思う。ただ映像が単調で、砂漠にぽつんとある地殻調査の施設という舞台設定が活きていない。屋内のショットも同じような構図の繰り返しばかりで退屈だったな。でもね、砂漠を採掘していったらその先には地獄があって、その地獄へ向かってカメラがぐんぐん降りていった先、辿り着いたのは妻が子供たちを殺して自殺した、という主人公の過去だった、というのは悪くないアイデアだったと思います。でも活きてない。
 「死霊の遺言」の方はこういうアイデアもなくて、あんまり練られていない犯罪劇にサイコホラーが混ざったような構成はあんまり冴えてない。生身の俳優が幽霊を演じるのはいいんだけど、それが幽霊なのかゾンビなのか、そこらへんの把握が曖昧だなーと。
 まとまりなくだらだらと文句多めで書いてきましたが、今回のイベントについてはなんだかんだ楽しめたんだよね(笑)。あーダメだなー、ほんとダメだー、なんて思いながら、にこにこしながら映画を観てるぼくがいました。これだけ集中的にホラー映画が上映される機会っていうのはあんまりないし、なんか嬉しかったな。今回の上映作の出来はともかくとして、だけども。来年にあるという本番イベントには期待したいところです。そんな感じです。どんな感じだ。